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「じゃあ今日は終わり〜」

先生が帰りのSHRを終えた途端、ザワザワと教室から出ていく生徒たち。
私もその波に乗りたいところだが、今日は日直のため日誌を書かなければならない。
今日の欠席は誰だったかな…なんて思いながらシャーペンの芯を押し出す。

我がクラスは1人ずつの日直のためなかなか回ってこないけれど仕事が少し多いのがツライ。

今日の教科や授業内容などを思い出しながら日誌を書き進める。

しかし、一番ツライ仕事は黒板消しだ。
私はお世辞にも背が高いとは言えないため上の方を消すのが一苦労だ。
幸いにも友人には恵まれているため、上の方は手伝ってもらっている。

しかし、その友人たちも部活やバイトそして、予備校などで帰宅済み。
私の目の前に残されたのは担任の字が敷き詰められている黒板。

心の中で「なんで上の方に書くんだあいつは。」なんて悪態をつきながら、日誌を書き終えたシャーペンの代わりに黒板消しを手に取った。

下の方だけ消して、あとは椅子を拝借しよう。椅子の上からじゃ下の方は消しにくいしね。

「……はぁ…」

黒板の下の方を消し終え、椅子を拝借しているときに自分の身長の小ささに嫌気がさす。
友人からは「サイズ感が可愛い」と言われるがそれは顔が可愛い子限定だ。
もうすこしだけ大きくなりたいものだ。なんて思っていたら、ガラガラと扉が開かれた。

「あ、そっかみょうじちゃん日直か」

「及川…」

及川徹。
青城にも他校にも非公式ファンクラブがあるくらいの人気がある男子バレー部主将だ。
私は彼が苦手。
私と真逆なオーラしか纏っていない。自分に自信があって、みんなになんだかんだで慕われていて背も高い。

隣に並んだ日には友人に「親子みたい」と大爆笑された。

何しに教室に戻ってきたのか問いかけようとして及川の方をもう一度見ると、手に黒板消しを持っていた。

「へ?」

「上の方届かないんでしょ?俺が消してあげるから日誌書きなよ」

「日誌はもう書いたし、椅子使えば大丈夫だから部活戻って?」

「もう黒板消し持っちゃったから無理でーす!みょうじちゃんは女の子なんだから男の俺に頼ってよ」

「結構です」と断ろうとした途端、ヒョイっと抱えられて椅子から降ろされる。

「軽いね?!ご飯食べてる?!?!」

ちょっと何が起こったのかわからない。
椅子から私はいつの間に降りた?いや降ろされた?抱えられた?え?

「びっくりした…」

「まあまあ、任せなさいって」

ルンルンで、余裕綽々で黒板の上部を消していく及川が憎らしい。

「ありがとう」

「どういたしまして」

黒板を消し終わって、自分の席に歩いていく及川。
なんだノートを取りに帰ってきたのか。

「じゃあ、また明日ね!気をつけて帰ってね〜」

ひらひらと手を振りながら部活に戻って行った及川を気がつけば、ほぼ放心状態で見つめてしまっていた。

サラッと爆弾を落としていったついでに黒板まで消してくれたしなんだあいつ。ファンクラブできて当たり前じゃないか。

「日誌だして帰ろう……」

ドキドキしているのは突然の出来事に対して心臓がまだ付いていけないせいにしておこう。
慣れてないだけだ。

鞄を持って、日誌を片手に持って教室を後にした。

始まりの音
このドキドキが
恋の始まりの音と
気がつくのは
もっと先のこと