綺麗な言葉がお似合いで
受け持つ予定だった生徒が急に熱を出してお休みのため、チラシ折りという名の事務作業をすることになった。
スタッフルームへ戻ると教室長が新しいバイトの人にいろんな事を説明していた。

チラシ折りは結構やっているので手馴れたものだ。
教室一速いと言っても過言じゃないと思う。柳くんには負けそうだけど。

「じゃあ、今日はチラシ折りやってもらおうかな」

「わかりました」

そんな声が聞こえると、教室長はどこかに行ってしまい、私が今座っている椅子の後ろに座っていたはずの新しい人が私の隣に座ってそっとチラシを何枚か掻っ攫っていった。

イケメンとこの空間にいるのかなりしんどいんですけれど。

私は中高と女子校に通っていたため、男子と話す耐性ができていない。
大学も女子大にしたかったのだけれど、何故か私が進みたい学科が女子大に存在せず泣く泣く共学の大学に進学したのだ。
ゼミは女の子がほとんどで男の子と会話も皆無に近い。

数ヶ月前に入ってきた柳くんともやっと会話ができるようになったくらいなんだから、初対面の男の人しかも美少年と会話ができるわけがない。

「みょうじさんは大学何年生?」

「…、2年生です」

「じゃあ、俺と蓮二と同い年だ。あ、幸村精市です」

ふんわりと微笑む彼は美しいという言葉が今この時間、この教室で1番似合う人だと思った。

「みょうじさんは大学どこなの?」

「立海です」

「え?ほんとに?俺も立海なんだ。学部違うのかな」

「えっと、文学部です」

「そっか、俺法学部なんだよね。文学部ってことは蓮二と一緒だね」

この人はコミュニケーション力のお化けだろうか。
初対面の異性にこうやってポンポン話ができるのは社交性がある証拠なのだけどすごすぎる。
柳くんも話すときは話すけれど口数は少ないほうなので、彼らは対照的だと思った。

「高校は立海じゃなかったよね?」

「なんでそれを…?」

「俺の顔を見て驚かなかったからね」

「は?……あっ、すみません」

「ははっ、全然いいよ。むしろ同い年なんだからタメで話してよ」

彼は何故そんなに自信満々に「自分の顔を知らなかったから立海は大学からだ」と言ったのだろう。
いくらこんなイケメンが学校にいるとはいえ、立海はどの附属学校もマンモス校だと聞いている。
そんなマンモス校では顔をあわせない人もいるかもしれないというのに、そんな自信満々に…。

「俺ら…あ、蓮二も含むよ?俺らはテニス部でね、全国制覇もしたことがあるんだ。それで一応俺は部長でね」

そこまで聞いて納得がいった。
強い部活の部員は否が応でも学校中に知られることになる。
しかも彼は部長でイケメンときた。そりゃ知らない人はいないだろう。

「みょうじさんは出身はどこなの?」

「関西だよ」

「でも、方言あんまり出てないよね?」

「あんまり出ないようにしてるの。頭の中で標準語に変換して頑張ってるけど、たまに不意打ちに話しかけられたり、方言同じ子だと出ちゃうかな」

「そうなんだ」

そんな世間話をしていると授業の終わりを告げるチャイムが鳴って今日の授業がすべて終わった。
チラシも全体の6割ほど折れたし、幸村くんとも少しだけ打ち解けられて良かった。
未だにイケメンすぎて顔を直視はできないけど。

「お疲れ様」

授業を終えた柳くんがスタッフルームへと戻ってきた。
2人並ぶと迫力がすごい。
全国制覇もしちゃうくらいの部活にこの2人がいたとなるとそりゃあ知らない人のほうが少なくなるだろう。

実質、柳くんは私のこちらの友人たちの間で人気が高い。
バイトが同じだと言うとかなり羨ましがられた。
ちなみに羨ましがっていた友人は高校から立海に通っているらしい。

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