爪先からプロローグ
私はとある個別指導の塾で講師のアルバイトをしている。
今日から新しいアルバイトの人が入るらしい。
私は進学と同時に神奈川までやってきたのでこちらの知り合いはほとんどいないと言っても過言ではない。
……悲しい。

このアルバイトは家から近いし時給も良いので即決めした。
同い年の女の子こそいないものの(2つ上の先輩はいる)、同い年の男の子は綺麗系の顔で目の保養になっている。

教室には小学生や中学生の子たちが溢れていて、皆それぞれ仲の良い子といろんな話をしている。

そんな中、教室の入り口に近いところで好きな人の話をしていた女の子たちがザワザワとより騒ぎ始めた。
というか教室にいる人の視線が入り口に集まっている。
次の授業の準備を終えていたので入り口に目を向けるとそこには藍色でウェーブが少しかかった髪をしたイケメンというより美人という言葉が似合う男の子が立っていた。

「こんにちは、今日からお世話になる幸村です」

「精市」

私の隣で次の授業の準備をしていた柳くんが入ってきた男の子の名前であろう言葉をポロリと零して入り口の方へと歩いて行った。

柳くんと一緒に教室長と少し話した彼らはスタッフルームへとやってきた。
あ、もう授業始まっちゃう。
彼が新しいアルバイトの人なんだろうなとひとりごちて、授業ブースへ向かう。
すれ違う時に少し頭を下げたら下げ返してくれたし、良い匂いがした。

授業ブースに入ると、女の子たちは先ほどの男の子について話をしていた。

「みょうじ先生〜!あの人誰〜?」

「私もまだわからないんだけど、多分新しい先生だよ」

「ほんと?!あんなイケメン先生いたら私毎日塾きちゃう」

「祐奈ちゃん柳先生が入ってきた時もそれ言わなかったっけ〜?」

「えー!忘れた!」

生徒と勉強以外のことについて話すのも大切だと昨日のミーティングの時に言われた。
私は柳くんよりは生徒とコミュニケーションは取れているはずだ。
人気は確実に柳くんの方が上だ。
頭が良いし、わかりやすいし、なによりイケメン。
ずるいと思いませんか。

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