キャンバスを侵食せよ
「丸井と仁王と会ったんだってな」
「赤色さんと銀色さんだよね?でも、友達が2人とクラスが同じだったことがあるみたいで、なんかペラペラ〜って色んなこと話してたのを見てただけだよ」
授業終わりにスタッフルームで柳くんが入れてくれた紅茶でティータイム。
けっこう夜遅いのだが頭が糖分を欲しがっているので、柳くんが持ってきてくれたケーキを食べている。
塾だというのにスタッフルームの冷蔵庫にケーキが入ってたりするから謎だ。大体は柳くんが持ってきているらしい。
「このケーキも丸井が作ったものだ」
「え?!めっちゃ美味しいんだけど」
「今まで俺が持ってきたケーキは丸井が大量に作ってきて、俺らが食べきれなかったものだったりする」
「丸井さんすごすぎ…。ごちそうさまですって伝えておいてください」
甘ったるいものもあれば、甘さ控えめだったり、さっぱりしたものもあってプロを目指してる人って本当にすごいなと思う。
私は専門学校に通ってる人は凄いなと思うと同時に羨ましいなと思ってしまう。
やりたいことが決まっているなんてすごいと思う。
私もやりたいことがあってこの学部に来たはずなのにわからなくなってしまった。
とりあえず楽しいからやっていけてるけれど。
「ああ、あと精市に告白されたんだってな」
「ゴホッ…えっ、ゴホッ、」
口に入れていた紅茶を吹き出しそうになって頑張って飲み込む。桜ちゃんと話ししてる時もこんなことあったぞ…?
あからさまに焦った顔をして柳くんを見ると、彼の綺麗な指がパラパラとノートをめくっていた。
彼がそのノートを手にしてる姿は何度も見たことがあったが、それが何のためのノートなのかは知らない。
「精市が言っていた。『みょうじさんに告白した』と。元々協力するように頼まれていたんだ。あとこのノートは昔からデータ収集が趣味でな。悪いようには使わないから安心しろ」
私が聞きたいことに対して全て答えてくれる柳くんはエスパーなのだろうか。
「精市のことを意識させるように頼まれたりもした」
「…告白された時点で十分に意識しております」
「ほぅ…では、答えは出ているのか?」
「出てないに決まってるじゃん。ついこの間初めましてだったのに」
「まあ、無理もない。」
そして「焦らずゆっくりと答えを出してやってくれ。精市があんな風になるなんて珍しいぞ」なんて言われてしまったら余計に混乱するに決まっているじゃないか。
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