苦くなるこの胸はすべて君のせい


幸村くんに「君の彼氏に立候補する」と言われて数日が経った。
なぜか同じ日にシフトが入っていたとしても、すれ違うばかりだったりする。
学校でも今まで会わなかった人と突然会うわけなくて、会わないどころか見かけることすらほとんどない。
あ、髪が派手なお友達はよく見かける。

「とりあえず、あんたが贅沢な悩みで悩んでるんだってことだけは把握してるから」

「それは本当に自覚ある…でも、なんで私なのかわかんないし、自分に興味がない私をからかって遊んでるだけかもしれないし、とりあえず意味わかんない」

「私が知ってる幸村くんは高校時代だけだけど、いくら美人に告白されても、自分のこと知らない転校生を見てもそんなことなかったけどな〜」

私があまりにもため息をついたり浮かない顔をしているため、必修科目ではなく、出席をとらない授業を自主休講して談話室で女子会を開いてもらっている。

幸村くんに告白された旨を伝えるとめっちゃ驚かれたけれど、彼女にとって幸村くんは雲の上の存在らしく嫌味を言われることなく相談に乗ってくれている。
幸いにも周りに人は少ないので聞かれることは少ないと思うし大丈夫だろう。

「でも、私と幸村くんが初めて会ったのバイト先だよ?それ以外で会ったことないもん」

「一番の謎はそこなんだよね〜!あの幸村くんが一目惚れしたってことでしょ?」

「そうなるのか…?」

「そうじゃなかったとしても幸村くんが誰かを好きになるってすごいこ「松本じゃん!」

友人の声が遮られ、しかも名字を大きな声で呼ばれているときたらその声の主を探さないわけがないし、反射的に声がした方を向いてしまった。
そこには私たちの話題の中心である幸村くんのご友人の赤髪さんと銀髪さんがいた。
目の前の友人に向かってダッシュしてきている。
怖い怖い怖い!!

「丸井と仁王じゃん、なんでここにいんの」

「俺らたまに遊びに来てんだよ」

「幸村達にブンちゃんが練習で作っとるケーキのおすそ分けに来とるんよ」

「大学部に進んだテニス部ってそこまでいたっけ?」

「いや、あんまいねーけどここが集合しやすいから皆でここに集合してんだ」

「あー、なるほどね。切原くん?は無事に大学生になれてるの?ワカメ見かけないけど」

「一応なれたみたいぜよ。柳達に奇跡だって言われとった」

淡々と進む3人の会話に置いていかれてしまっている。
この前のスタッフルームで聞いた「丸井」と「仁王」という名前以外にも新しい名前が出てきた。
彼らもテニス部だったんだろうか。

というか、友人もなんでこんな簡単にイケメンと話ができるんだ。
そのスキル分けて欲し…いや、分けてくれなくていいや。なくても今まで困ってこなかったし。

「あ、ごめん!紹介するね、赤色が丸井で銀色が仁王。高校時代に同じクラスだったことがあるの」

「みょうじなまえです、」

「赤と銀って…髪の色かよ」

「それ以外に何があるっていうの」

「イケメンの方がまーくんだって言って欲しかったナリ」

「イケメンは自分のことまーくんなんて言いません」

仁王さんは独特な方言を話す人だな…。関西とかとりあえず西の方なんだろうけれど色んなところが混ざっていると言ったほうが正しそうだ。

「あ、幸村くんたち来たみたいだから俺ら行くな!また今度会ったらケーキやるよ!」

と言ってドアの方へと走って行ってしまった。
ケーキを持っていると言っていたけれど、あんなに走って大丈夫だろうか。
あと、けっこう遠くにいる幸村くんと柳くんとあと天パの男の子をよく見つけれたな。

「すごいなテニス部。」

思わず口に出すと、友人から「テニス部関係なくて、あいつらがヤバいだけ」とキレッキレのツッコミをいただいた。

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