死んでしまいたい。

そう思うことは人間生きていて何度もあるだろう。
今ちょうど私もそう思っていたところだ。
特に大きなキッカケなんてない、ただ漠然と死にたいと思うんだ。

誰もいない放課後の教室で、はぁ…とため息を吐く。
つい1時間ほど前まではクラスメイトが沢山いて、学校内もたくさんの人で溢れていた。
でも、今は放課後で殆どの生徒は帰宅したり、屋外の部活に参加してたりして人はいない。

私が死んだとしても悲しむのは両親だけだろうし、祖父母は跡継ぎがいなくなったと悲しむくらいだろう。
私1人いたところで世界は変わらないんだから。

「あれ、みょうじじゃん。まだ残ってたんだ」

ガラリとドアが開いて、クラスメイトの切原赤也の声が聞こえた。
席は前後で、天パだと噂に聞いた髪の毛に触れたくて毎日我慢していたりする。

「あー、うん。なんか、死にたいなってボンヤリと思ってた」

「は?!?!」

プリントだらけの机の中からお目当のプリントを探すべく、椅子に座って、机の中に手を突っ込んだ状態で目を見開いて大声を出す切原は少し面白い。
今にも椅子から滑り落ちそうだ。というより、半分くらい落ちている。

「別にさ、これといって理由はないんだよ。でもね、なんとなく死にたいなって思うことない?」

「……俺はねーけど、」

「けど?」

「つい、数ヶ月前までウチの部長入院してただろ?その時にも部長が『死にたい』って言ってたなと思って」

再び机の中に手を入れてプリントを探す仕草をする切原。
プリント入れすぎだし、重要なプリントもしわくちゃになってそうだ。

男子テニス部の部長である幸村先輩(廊下とかで見かけたことあるだけ)が入院していたのは有名で、夏休み中くらいに退院したと友人からの連絡で知った。
一時期はテニスができなくなるかもしれないという噂も飛び交っていて、どうなるんだろうと思っていたが、彼は生きて、彼の足で立ってテニスをしていた。

「俺は、先輩たち倒すって目標があるからまだ死ねない。死にてぇって思ったことはないし、誰かに生きろって言えるような偉い奴じゃないけどさ、みょうじが死ぬことを選ばずに今ここにいることが嬉しい。」

目当てのプリントを探し出せたらしい切原はしわくちゃなプリントとは正反対の綺麗な笑顔を私に向けた。
嗚呼、なんて素敵なんだろう。

「じゃあ、また明日な!!絶対に、また明日!」

私に「また明日!」を二度言った彼はダッシュで教室から出て行った。
彼が手にしていたのは"テニス部合宿のお知らせ"と書かれたプリントだった。
きっと怖いと噂の副部長さん達の元へと走って行ったのだろう。

今日は「生きる」選択をしてみようと思う。