夏休みが8月31日に終わらなくなってどれくらい経っただろう。
むしろ、7月中に夏休みが始まることすらなくなっている。

7月下旬には登校中によく虫網を持った小学生とすれ違ったが、よくもまあこんな朝早くから元気に活動できるものだなと思ったりもした。
でも、今思えばラジオ体操だとか、虫取りだとかで私も昔はとっても早起きをしていた。
今では1限の授業に間に合うように起きるのですら、つらくて仕方がないというのに。

ふらりと寄った9月頭の海。
残暑が続いていて、まだまだ夏は終わりそうにない。
でも、8月が終わると夏が終わった気がするから、ただ暑い秋という印象だ。

サンダルを脱いで、少しだけ海に入ると、冷たくて、懐かしかった。

幼い頃から海の近くの学校に通っていたからか私たちの遊び場といえば海だった。
大学に入ってからは海から離れた場所で生活していたし、友人と海に行こうという話にはならなかったから海に来るのは久々だった。

つらいことがあった日は1人でここ、六角中の近くの海によく来ていたし、今日の目的もそうだった。

とりあえず大学は出た方がいいという親の言葉で進学を選んだけれど、向いてない気がしている。
就活だってもう少しで始まるというのに、やりたいことなんて何もないし見つからない。

「中学が一番楽しかった。」

そうポツリと言った私は悪くないと思う。
だって、一番心から笑えていたのは中学時代なんだもの。
クラスメイトに恵まれていた。最高だった。

海から少しだけ離れて、持って来ていたレジャーシートを砂浜に敷いて寝転がる。

「あれ、みょうじ?」

「へっ…………サエ?!」

「どうしたんだい?こんなところで」

「サエこそ……」

名前を呼ばれて視線を声がした方に動かすと、久しぶりに見るサエがいた。
サエこと佐伯虎次郎は3年間同じクラスだったからよく話していた。
千葉のロミオなんて呼んでたのが懐かしい。

「俺はなんとなくここの海が見たくなってね」

「私も」

体を起こしてサエが座れるスペースを確保する。
ストン、と私の隣に座るサエは最後に見た時より幾分も大人になっていてかっこよくなっていた。
きっと大学でもモテモテなんだろうな。
サエの彼女になる人はすごく幸せなんだろうなぁと思った。
彼の好きなタイプが束縛する人なのはこの際置いておこう。

「大学は楽しい?」

「まあまあ、かな。」

「そっか」

「サエは?」

「俺は…楽しいよ。でも、やっぱテニス部とバラバラなのは寂しいかな」

「仲よかったもんね〜、テニス部。羨ましかった」

「そんなすごいものじゃないよ」

「ううん、私にとっては憧れ」

SNSの投稿を見る限り彼らは定期的に集まって騒いでいるらしい。
六角中の男子テニス部の顧問のおじいは未だに健在で年齢の謎が余計に深まったし、一生解けない謎な気がしている。あの人は生きてる人なのだろうか?

「バラバラになっても誰かの声で集まれるのは素敵だよ」

「まあ、そう、かな?」

「うん、素敵。」

キラキラと輝く水面がまぶしすぎて見ていられない。
私にはあんな輝くものなんてない。

「なんとなくさ、テニス部の奴らは連絡とらなくても会える気がするんだ」

「ん?」

「生きてて、同じ世界、同じ日本にいるんだから会えないわけじゃないと思うんだ」

「うん、」

「きっと、俺らはどこかで繋がっていて、どこかで支えあってるんだよね。今月はあいつらに会えるからバイトと勉強頑張ろうって思えたりする。あと、たまたま会った日とかはもっと幸せになるよ」

私と正反対にキラキラと輝く水面を見つめるサエは水面みたいに眩しかった。
昔からこんなふうに彼は眩しかったのだ。

「約束なんてしてないのにみょうじと会えたようにね」

「ほんと偶然だよね、びっくり」

「無理をしろって言ってるわけじゃないけど、泣きたいことがあったときは泣いて、嬉しいことがあるときはそれを思って生きればいいと思う。

だから、

泣いてもいいんだよ、なまえ」


title by モラトロジー