これの続き。

夏休み明けの学校は幸村…せーちが退院したという話題で持ちきりだった。
夏休み中に退院して、普通にテニス部の全国大会に出場して準優勝していた。
何も知らない私からすれば準優勝なんて立派なもんだけれど、せーちや弦にとっては悔しい結果だったそうだ。

なぜ知っているかというと、大会の翌日にせーちと弦が私の家に久々に殴り込んできて(語弊が少しあることは認める)、準優勝がどれだけ悔しくて、どれだけ青学のボウヤがヤバいかだけ把握した。せーちの技にもびっくりしたけどそんなこと言えなかったよね。
弦は青学の手塚さんに勝てたらしくってそこは喜んでいた。

そんなこんなで久しぶりにせーちや弦と話をしたけれど、それは大会の翌日だけで、連絡先を交換しているとはいえ頻繁に連絡を取り合ったりはしなかった。
テニス部もきっと引き継ぎで忙しいはずだし、特に用もなかった。

「なまえ〜!幸村くん退院したんだって!!」

「グヘッ、…突進してこないでよ…朝ごはん出るじゃん」

「えっ、汚い」

「ちょっと、そこはゴメンとか欲しかった」

始業式の朝、いつも通り登校してくると友人が"皆のアイドル幸村くん"が退院したことを伝えつつ突進してきた。
この子は特にせーちが好きだとかそういうことはないらしく、ただ単に皆のノリについて行っているだけらしい。楽しいことが好きなのだ。

「それよりさ!幸村くん復帰してたよ!コートでテニスしてた!」

「そりゃ、復帰してるならコートでテニスするよテニス部だし」

「そういうこと言ってるんじゃなくてさ〜!なんかこう、ないの?!他の女の子たち皆、幸村くんの姿を見にテニスコートいたよ」

「どーりで、いつもより玄関の女子率が低いわけね」

確かに、彼が退院して今日初めて彼に会うならば他の女子と同じ行動を思わずしてしまっていたと思うけれど、事前に会っているし、お母さんから「今日は精市くんのご両親お留守らしいから、晩御飯誘っておいてね」と言われたくらいで、特にこれといって大きな用もないわけだし。
お母さんからの伝言はべつに直接じゃなくてもいいからメールでも打っておこうかな。

友人のテニスコートにどれだけ人がいて、どれだけ幸村くんがテニスをしていたかについて熱く語られながら教室までの道のりを歩く。
友人の熱弁を聞き流しながら久々にせーちのメールアドレスを探し出して本文を打ち込む。
部活終わりにどーぞ、と最後に書いて送信ボタンを押すと同時に教室に着いた。
いつもより女子の人数は少なくて、本当にテニス部に見に行ってるみたいだ。レギュラー陣の3年生が引退するまでもう少しだしそれを見に行っているということもあるんだろうな。

クーラーが効いた教室で机に突っ伏して再び友人の話に耳を傾ける。
夏休み前の席替えで友人とは前後に、せーちとは隣同士になったのだ。

「あー、うん、そーだねー」

「なまえほんとに聞いてる?」

「聞いてる聞いてる〜」

「ったく〜…あ!幸村くんおはよう」

「おはよう」

今日の晩御飯なんだろうな〜〜とか思いながら友人の話を聞いていると、黄色い声と共にせーちが教室に入ってきた。

「なまえもおはよう」

「……」

「おはよう、なまえ」

「………、おはよう。」

「えっ」

「そうだ、今日は部活終わりに一緒に帰ろうか。待っててよ」

「せーちまだ部長だから絶対に遅いじゃんヤダよ。というかなんで急に。」

「今日はミーティングだけだし、真田に後は任せるから」

「弦に頼りすぎじゃない?」

「いいんだよ」

「あの…2人はどんな関係で?」

私たちの関係を不思議に思った友人がやっと口を開いて、私たちの会話に割って入ってくる。
せーちがやっと聞いてくれたかみたいな顔をして、

「幼馴染だよ」

なんて言い放つから、教室は悲鳴に包まれてしまった。
静かな学校生活に終止符が打たれた瞬間でもあった。

でも、せーちや弦を避けてたときはかなり寂しくて、切なかったからこっちの方がいいのかなとも思ったりもした。


titlle by 星食