嗚呼、こんなに真剣な顔で、赤也に至っては涙目で、彼らにそんなことを言われたら何も言えなくなるじゃないか。

この感情で全てを決めちゃダメなことだとはわかってる。
でも、私はこの世界にいたいと強く思ってしまった。
彼らの側で、高校でも大学でも、いつでもいいから彼らの全国制覇を見てみたいと思ってしまった。

でも、前の世界の友人にだって会いたい。
記憶を持ったまま生きて行くということは彼女たちとの思い出も消えないわけできっとここに残ったらたくさんたくさん後悔することだってある。

「まだ時間はあるし、とりあえず幸村くんは早く退院してね。皆も深く考えすぎないでほしいな。」

「みょうじさんもちゃんとご飯食べてね」

「…はーい」

とりあえず話を終えた私たちは幸村の病室を後にした。
深く考えすぎないでほしいと言ったのはいいけれど、あんな異次元だなんだみたいな話しされて考え込まない方がおかしいよね。

病院の前で駅に向かう人と向かわない人とで分かれる。私はもちろん駅に向かう人組。
ここ数ヶ月通いつめた道をあと何回歩けるのかな、なんて考えたりする。
もちろんいい意味で、だ。幸村が退院してしまえばもう病院に通うこともない。

「頑張りすぎんでええ、」

「は?」

改札を通り、それぞれの電車のホームに向かうところで仁王にそう言われた。
頑張りすぎんでええ…か。

電車を待つホームでまた少し泣いた。

▽▲▽

常勝を掲げていた"あの"テニス部が準優勝だったという話と幸村の手術が成功したという話がTwitterやラインのタイムラインで飛び交っていた。
どこの部活よりもストイックで無敗で三連覇をすると誰もが信じていたんだ。
しかも、"皇帝"真田が1年のルーキーに負けたときたら話の種にならないわけがない。
皆の人気者幸村くんの心配されていた手術も成功したという嬉しい知らせもあるものの、やはり準優勝という結果が彼らの中では大きいらしい。

関東大会決勝の翌日は夏休みの登校日で、学校中もその話題で持ちきりだった。

先生達もこの結果にはさすがに驚いたらしく、授業をしにくる先生全員からこの話題がでたのは言うまでもない。

全国大会のあとの学校はどうなってしまうんだろう。
私はその時この席に座って先生や友人の話を聞くことができるのだろうか。