赤也の要望でテニス部にレモンの蜂蜜漬けを差し入れした同じ日の夕方に幸村を訪ねると、かなりナーバスな状態でベッドにいた。
「手術か…」
「明後日だね」
「決勝…」
「も明後日だね」
「はあ……」
「みんななら全国の切符を手にして駆けつけてくれるから幸村くんは手術に専念して?」
「でもね、ここで優勝して帰ってこられたら俺がいなくても大丈夫だってことを突きつけられそうで怖いんだ」
「幸村くんがいないと、テニス部は何か足りないよ。真田くんは相変わらず厳しいけどね。私も寂しい。」
「みょうじさん……」
「だから、早く帰ってきて」
「うん、」
ギュッと手を握って頷く。
手術は成功すると知っていても不安になるし、立海は優勝できないのを知っていてこんなことを言っていいのか不安になる。
漫画ってズルいよね、主人公が勝つようにうまくできてる。
一度はライバルに負けて…っていう王道を歩まないテニプリはすごいと思う。
「全国まで行ったら蔵とも四天宝寺みんなともまた会えるし楽しみ」
「そういや、中学生で付き合うなら四天宝寺の忍足くんだってみょうじさんが言ってたって柳から聞いたんだけど…?」
「へっ?」
手術が近づいていてナーバスになっていた幸村はどこへ行ってしまったんだ。
「中学生は恋愛対象になるの?」
「それは、その、言葉の綾っていうか、女の子たちに反撃するために言った言葉っていうか…」
「恋愛対象になるの?」
「あの……」
握った手を強く握られて、あの目に見つめられたらどうすればいいかわからなくなる。
中学生が恋愛対象なのだってこの世界限定だ。
というか、それ知ってるの仁王だけだと思うんだけど!
この世界に残ることを選択すると、体は中学生にちゃんとしてくれるらしい。記憶は二つの世界のものを共有するらしいけれど。
「みょうじさん」
「〜〜っ、秘密…です」
ふぅ、とため息を吐いた幸村には申し訳ないんだけど、秘密の一点張りをさせてもらおう。
私は前の世界では彼らが嫌いなミーハーという部類にいたんだからそれを言ってしまえばきっと離れられる。
自分たちに興味がない私が面白くてからかってるんだよね。
ここで、好きですなんて馬鹿正直に話しちゃったらこの空間を期限より早めに手放さなきゃいけなくなる。
期限まではこの空間にいさせてください。