「今日は幸村くんに大事な話があります。」

倒れた日の翌日もすっかり学校帰りの寄り道スポットと化した幸村の病室を訪れていた。

すっかり看護師さんと仲良くなってしまったのは私自身びっくりしたけれど、幸村の状態を聞けたりするのは少しだけよかったな、と思う。
ただ、看護師さんも知ってることは少なくて…いや、伝えることは禁止されてたのかもしれないけれど、彼がテニスができなくなるかもという情報は一切入ってくることはなかった。

「急になんだい?君が20歳なのはこの前聞いたよ?」

「それに関することでね、この世界から消えなくてすむ方法がですね…わかりまして…」

「あんだけ消えるって言ったのに?」

「面目ない…でも、消えようと思うの」

「は?」

「怖いです…!」

そう。昨日倒れた時、この世界から消えなくてすむ方法を思い出したのだ。
ちなみに、これが最後の記憶だということも思い出した。
カレンダーと照らし合わせてみると、昨日から2ヶ月後はなんの因果か全国大会決勝の日だった。

2ヶ月後、つまり全国大会決勝の日の夜、眠りにつくと元の世界に戻れるが、眠らずに日付を超えるとそのままこの世界にとどまれるらしいのだ。
なんだそのファンタジー要素満載の設定は。
トリップしてる時点でファンタジー要素はお腹いっぱいだというのに。

あと補足だが、立海大附属はちゃんと関東大会に駒を進めている。1ヶ月後くらいには関東大会が始まる。

私がこのことを伝えた後の幸村のこの態度は年上に対するものじゃないと思うんだ!
今まで通りにしてって言ったけど、今まではこんなに扱いひどくなかったよね?
彼の本性としてはこれなんだろうけどさ〜!

「なんで消えるの?」

「私は元々この世界の人間じゃないし、」

そう言うが早い。
頭を鷲掴みにされて握られた。
痛い痛い!!骨がミシミシ言ってる!!
こんな人が病人とか嘘だ!

「ギブギブ!幸村くんさ、私の正体知ってからの態度悪いよね!」

「え?何か言った?」

「ナンデモナイデス」

「そのことは俺以外に言ったの?」

「残れって言われそうだから言ってないし、君たち3人以外にはトリップしてきたことは言ってないよ」

昨日だって柳に戻らなくていい方法はないのかって聞かれたし止められちゃいそうだもんね。

私はどうしたい?と聞かれたら答えは「まだわからない」だ。

前の世界だってとても充実していたし戻りたいとも思う。でも、この世界もとても充実していて、どちらかを選べと言われても困る。

「何も言わずに別れるつもりかい?」

「転校するとでもいうよ、まだ中学生だしね」

「みょうじさんはそれでいいの?」

「大人には我慢しなきゃいけない時もあるんだよ」

「大人って大変だね」

「まあね、」

「俺はまだ子どもだ。でも大人にはやくなりたいよ。」

「焦って大人になる必要なんてないよ、ゆっくりでいいんだよ」

「だって、子どもだとみょうじさんに男として意識してもらえないだろ?」

「うん………?」