幸村のお見舞いに行ってから、学校にも少しずつ登校し始め、テニス部にも絡まれているところを何度も私に対していじめを行っていた子たちに見られていたというのに、靴箱も机も綺麗だ。
理由がわからない。
ない頭をフル回転させて考えるのだが、理由はやっぱりわからない。
保健室の椅子に座って頭を抱えてみるけどやっぱりわからない。
こういう時にはやっぱり甘いものを食べるに限るよね!
今日のおやつはプリンである。
保健室の冷蔵庫からしっかり冷やしていたプリンを取り出して、スプーンを入れる。
我ながら今回のプリンはかなりうまくいった。
まだ丸井たちは取りに来ていないからきっと昼休みに取りに来るんだろうな。
私が登校してきたの4時間目の途中だし。
チャイムが鳴ったと思ったら、足音がどんどん近づいてきて、元気よく扉が開けられた。
「みょうじーー!!」
「丸井くんさぁ、静かに入ってって先生に毎回怒られてるでしょ」
「…っす」
「今日はプリンです、1人一個ね」
いつの間にかレギュラー陣にお菓子を作るようになってしまったし、真田まで来てるからちょっと面白かったりする。
冷蔵庫に入れていたプリンを取り出して、スプーンと一緒に渡す。
「幸村にも放課後持っていくのか?」
「幸村くんのは家に置いてるの。丸井くんに食べられそうだしね」
「そんなことしねぇよ」
「ジャッカルくんのよく横取りしてる人の言うことは信用できませーん」
私も食べかけのプリンを再び食べ始めたところで「そういや、」と柳が口を開いた。
「壁がなくなったな。以前はみょうじは俺らとどこか壁があるようだったが、最近はそれがなくなった」
「そうですね、表情も明るくなりましたね」
「そうかな?」
「俺もそう思うっす」
なぜだろう、と私も考えてみて、トリップしてきたということを誰かに話すことができたからなのだと思った。
あの日以来、幸村によく前の世界のことを聞かれるようになった。
この世界とはどこが違うんだ、とかどんな学生だったのかとか。
幸村の暇つぶしくらいにはなってるだろうし、私も話していて気が楽だ。
あとはイジメも無くなったのはかなり大きいんだと思う。
こうやってテニス部のみんなとワイワイしているというのに、何故か平和だ。
「イジメも無くなったしのぉ」
「そうそう…って、え?なんで知ってるの?!」
「みょうじが反撃したあとにやっぱりまだやる気でいたみたいだが、ちょっと話をしただけでひいてくれたよ」
「想像するだけで怖いんですけど」
「そういうことじゃき、心配せんでええ」
ポンと頭の上に手を乗せられたと思ったら、ぐちゃぐちゃーと髪の毛を撫でられる。
改めて考えてみるとテニス部のレギュラー陣は本当にかっこいい。
ファンクラブもできるはずだよね。
仁王、柳それから幸村にいたっては私の謎の境遇を知っても全く態度を変えないどころか以前より扱いが仲良しゆえの雑さを感じる気がする。
まあ、私の態度もそれに比例して3人に対して同じようになっているけれど。
この空間は結構心地よくて、あと数ヶ月で手放してしまわなきゃならないと思うとかなり寂しかった。