昨日思い出したのは、この世界に来る直前の出来事だった。
昨日までにすっかり記憶は戻ってしまって、こんがらがって結構大変なことになっている。

この世界に来る前に、うっかり知らない路地裏に迷い込んだ際に見かけたお店に引かれるように入っていった。
怪しすぎるお店だったから、その時はきっと正気ではなかったんだと思う。きっとね。

そこでこの世界に来るという夢を叶えてもらったのだ。
そこでの契約では、テニプリの世界に行くことによって今現在いる世界の記憶は全て消えるということ、しかし記憶は徐々に戻っていくので記憶が全て戻ってから2ヶ月後にテニプリの世界から消えるのでお別れをきちんとすること、だった。

全部戻ったかどうかはあやふやなのだけれど、昨日から2ヶ月後だとすると全国大会は直接見れないんだ。

「ここに来るときの交換条件で、もうすぐ私は消えなきゃいけないの」

「そんな…」

「仁王と柳にもこのこと言ってなかったよね」

「…そうだな」

「初耳ぜよ」

「今ここに幸村くんは生きてる、手術すれば治る。きっとね、成功するから、だから自暴自棄にならないで。生きて欲しい。諦めなきゃちゃんと奇跡だって起きるんだ。またテニスできるよ」

布団の上に投げ出された手を取って伝える。
奇跡を起こして舞台に戻ってきた、とある俳優さんを思い出して泣きそうになる。
信じていればきっとまたテニスができるよ。

「……ありがとう」

手術が成功してまたテニスをできることを知ってるからこそ言える言葉で、これから先のことなんてわからない彼らからすれば無責任な言葉なのかもしれない。
でも、言わずにはいられなかった。

「仁王と柳は…みょうじさんがこの世界の人間じゃないっていつから知ってたの?」

「ついこないだだ。たまたま聞いたんだ。消えるというのは今初めて聞いたがな」

「あの時は私の不注意が大きかったよね」

「大声で叫んどって俺ら2人にしかばれてないほうが不思議じゃ」

「ここにいるメンバーしか知らない、他のテニス部には秘密ね。絶対に」

幸村の小指をとって、ゆびきりげんまんを無理やりする。

「君が消える前に俺は治さなきゃいけないね。」

「そんなこと言ってもらえるとお姉さんとっても嬉しい」

「……え?」

「私ね、前の世界じゃ20歳なの。元々ちっちゃかったからそのままこの世界に来たの」

「意外と酒豪でこの前部屋に行ったときお酒の缶がたくさん散らばっとった」

「あれは仁王と柳にばれたからやけ酒を…」

「まって、みょうじさんは20歳…?」

「みょうじなまえ、名前はちゃんと本名で本当の年齢は20歳。幼稚園の先生になりたくて国立の四年制大学に通ってて2年生やってました!お酒はあんまり強くなくて、酔うと眠くなるタイプです」

「データに加えさせてもらおう」

ちょっとシリアスになりそうな自己紹介の後にそんなことを言える柳はいろんな意味で凄いと思うよ私。

「あと、付き合うなら四天宝寺の監督やとも言っとったな」

「年齢的に考えたらそうでしょ…20歳と15歳の恋愛とか犯罪。こんな風に柳も仁王も今まで通りだから幸村くんも今まで通りにしてほしい」

「………、喜んで。」

外で待たせている部員にそろそろ悪いなと思い始めたので、また幸村にこのことを秘密にすることを念押しして他の部員を呼び込む。

赤也はまた泣きそうな顔をしていた。