もう我慢の限界だった。
久しぶりに体育に参加して教室に戻ると制服が無くなっていた。
友人たちにかなり心配されたが、心当たりは大いにある。

幸村が入院して学校に来なくなったからバレる心配はないと踏んだファンクラブの奴らがいじめに拍車をかけてきやがった。

他のテニス部員はちゃんと学校にいるのに、幸村にさえばれなかったらそれでいいのか?
普通は部員にすらバレるのは嫌がるはずなのに彼女たちは少々特殊なようだ。

幸村が倒れてから少しずつ失われていた記憶が戻ってきて不安になっているというのに、なんでこんな仕打ちを受けなきゃいけないのか。
テニス部と関わるつもりなんてなかったのに関わったから、自業自得というやつだろうか。

「ねえ、」

放課後になり、彼女たちは今日はテニス部の見学という名の押しかけをしていたらしくテニスコートの近くで見かけた。

「なに。」

「ちょっと話あんだけど」

制服がなかった私は一旦私服に着替えて再び学校へとやってきた。
彼女たちを私が水をかけられた場所へと連れていく。

「話って何よ。幸村くんにはもう近づきませんって言うの?」

「ちょっと黙って」

あの時の彼女たちと同じように、ホースを手に取り蛇口をひねる。
なんて子どもっぽいんだなんて自分でも思う。
やられたらやり返したる!なんてどこぞのゴンタクレのセリフが頭に響いて、オサムちゃんの声で勝ったもん勝ちや!と響いた。

「ちょ、何すんのよ!」

「せっかく巻いてたのに最悪…」

「何するのも最悪も全部こっちのセリフ!好きで幸村に近づいてたわけじゃない。好きで中学生やってるんじゃない!!好きでこの世界に来たんじゃない!好きで幸村を好きになったわけじゃない。なんで20歳にもなって14歳の男の子に惚れなきゃいけないの?!」

「何言って…」

「普通なら大学通って、オールでカラオケ行ったり、コンサート行ったり、漫画の中の彼らの気持ちに一喜一憂したり、もしかしたら彼氏だっていたりしたかもしれない。もしかしたら子どもだっていたかもしれない。なのに、この世界にきて全部めちゃくちゃ。いい加減にしてほしいのはこっちなの!」

自分でも何を言っているのかわからないけれど、もう限界だった。

この世界にいていいのか、ダメなのかわからない浮いたような存在の私。

誰にも相談できなくて、限界だった。

幸村の病気に対する重圧より早く限界がくるなんて思わなかったんだ自分でも。
少しくらいは頼れる年上でいたかったけど、精神的には彼らの方がやはり上だったらしい。

「もう私は彼らには近づかないから、どうかそっとしておいてあげて。誰よりツライのは彼らなんだから」

「なんであんたにそんなこと言われなきゃいけないのよ」

「三連覇に加えて部長不在だなんてどれだけ重圧がみんなにかかってるか考えたことあるの?14歳の男の子たちがそんなものを抱えてるのに、あんたらが迷惑かけていいわけないよ。好きならどうかそっとしておいてあげて」

「………、」

「私ももう関わらないから。交換条件。ね、いいでしょ」

「………わかった」

そういうと、少し不服そうな顔はしつつも彼女たちは帰って行ってくれた。
これで少しだけでもテニス部の負担が減るといいんだけど。

ふう、と息を吐くとまた頭痛がして記憶が頭の中に流れ込んできた。

今回の記憶は大学の空コマで友人たちとお菓子を食べて遊んでいる様子だった。