柳から「幸村が倒れた」と連絡がきたのは、幸村と昇降口で出会って一緒に教室に上がった日から1週間ほど経った日曜日だった。

駅で倒れたんだっけ、真田が救急車を呼べと叫んだのか、なんて原作の流れを思い出す。

実際に倒れたと聞かされた時はびっくりするかと思ったが、意外とあっさりしていて自分でもびっくりしたくらいだった。

病院名を聞いて、私も行くと柳に伝えて電車に乗る。
家の最寄り駅から4駅離れた場所に病院はあった。

事前に部屋番号は聞いていたため、看護師さんに階数だけ聞いて部屋へと向かう。

「みょうじ先輩……!!」

「切原くん」

部屋の外には真田以外のレギュラー陣が立っていて、私を見た瞬間赤也が駆け寄ってきて抱きついてきた。

「部長が…」

「うん、柳くんから全部聞いた。今は意識も戻ってるんでしょ?」

「そうっすけど…」

「なら、しっかりしな。男の子でしょ」

真田がいないのはきっとこれからの部活について話しているからだろう。
部長がいなくなるんだもんね。

ポンポンと抱きついてきた赤也の頭を撫でる。
ワカメと呼ばれる頭はふわふわとしていて触っていて心地いいななんて思っていると、幸村との話が終わったのか、真田が病室から出てきた。

「む、みょうじか」

「柳くんから連絡もらってね」

「以前、幸村から推薦があったくらい気に入ってる彼女には伝えてやろうと思ってな」

「幸村はそのことを知ってるのか?」

「いや、まだ言ってはいない」

「そうか…。幸村に顔を見せてやってくれ」

「ふふっ、まるで私が病人みたいな言い方するね真田くん」

ギュッと私のことを抱きしめたまま離さない赤也の頭を撫でる。
先輩には先輩の辛さがあるからときっと不安を押し込めていたのが私の顔を見て爆発したのだろう。
赤也も赤也なりにちゃんと考えているんだ。

「切原くん、あとで話聞いてあげるから一旦離して?」

「………はい」

いつもの返事より随分元気がない返事をして名残惜しそうに私から離れる。

深呼吸をしてノックを3回した。