突然だが私は学校が嫌いだ。
いや、この世界の学校が嫌いだ。
前の世界ではまだまともに通っていた。
サボり癖というか、日本語としてはおかしいが学校が嫌い癖がついたのだ。
クラスに友達がいないわけではないし、いじめられているわけではない。でも、やっぱり私はあの教室にいるべき存在ではないと思ってしまう。
出席日数を数えつつ、なんとかかんとか1年間やり遂げ、2年生になった。
今日も今日とて保健室でおさぼりです。
保健室の先生は若くて美人なうえに親身に話を聞いてくれるから人気が高い。
私も慕ってる人のうちの一人だ。
友人から借りた国語のノートを広げて、自分のノートに写す。
母親には「転校してもいいのよ?」と言われるけれど、私にそんな勇気はない。でも、教室に上がる勇気もない。
6月になると少しずつ教室ごとにクーラーが効き始める頃で保健室も例外ではなくガンガン効いていてとても涼しい。
公立の中学には付いていないと友人が言っていた。
さすが附属中学。
3時間目という微妙な時間に外で元気に体育をやっている男子たちを横目にせっせとノートを写す。
次の休み時間に取りに来ると友人が言っていた。4時間目が国語らしい。
体育前にスッとノートを持ってきてくれたのだ。
そう、今外で体育をやっているのは私のクラスと隣のクラスの男子なのだ。
今日はサッカーらしい。
「じゃあ、先生ちょっと職員室行ってくるから留守番よろしくね」
「はーい。いってらっしゃい」
ひらひらと手を振って先生を見送る。
基本的に健康児が多いから、保健室に来る人はなかなかいない。
ノートを移し終わりあと15分ほどで授業が終わるところで、ガラガラと扉が開いた。
先生が帰ってくるには早いなと思い視線をノートからあげると、同じクラスの幸村精市が立っていた。
「先生は…?」
「職員室……」
そっか、と眉を下げる彼の足からは血が出ていて、なるほどサッカーでこけたのか。と納得する。
"神の子"と呼ばれる幸村らしくないけれど、こういうところだけ中学男子っぽいんだからなんというか愛しい。
「洗った…?」
「へ?」
「足。血が出てるから…。この時間体育って聞いたから、こけたのかなって」
「一応洗ったよ」
その言葉を聞いて、消毒液などがしまわれている棚を開けながら、怪我人を座らせる椅子に座らせる。
「ちょっとしみるね」
一言断る。まあ、断ったところでしみることには変わりないんだけど。
傷口に消毒液をつける。
本当は絆創膏とかつけないほうがいいって聞いたことあるんだけど彼はテニス部だ。
貼ってた方がいいのかな。
「…絆創膏どうする?」
「あー、一応貼ってもらおうかな。部活あるから」
「わかった」
絆創膏を膝に貼ると、チャイムが鳴った。
「たぶんこれで大丈夫だと思う。利用者名簿に名前とクラスと今の時間書いてくれるかな、」
「うん」
幸村と話したのはこれがたぶん初めてだと思う。
昨年全国優勝を果たしたテニス部所属。来年からは部長を務めていたはずだ。うん。
友人に返すノートを閉じて、名簿に名前を書いている幸村を見ながら友人を待つ。
「じゃあ行くね、ありがとうみょうじさん」
「うん、お大事に」
「みょうじさんも」
………?
あ、そうか。保健室によくいるから体調が悪いと思われているのか。
そんなことないのになぁ。
彼が出て行った扉を見つめていると、入れ替わるように友人が入ってきたので、ノートにお菓子とお礼の言葉を添えてお返しした。