叩かれた頬が少しヒリヒリする。
最近の若者はすぐに手をあげるんだから怖すぎ。カルシウムちゃんととりなよ。
そして、こういうときはヒーローが現れて助けてくれるもんじゃないんだろうか。
ヒロインじゃないから無理か、なんて1人でこっそり笑っていると教室の扉が開いた。

「…何をしているんですか」

「柳生くん…!いや、なんでもないの!」

「帰ろ!」

「部活頑張ってね…!」

テニス部を目の前にして急に大人しくなった彼女たちは私と植木鉢化した上履きを教室へと残して出て行ってしまった。

はてさて、これは吉と出るか凶とでるかわからないぞ。

「で、仁王くんはなんで柳生くんの格好してるの?」

「………よぉわかったのぉ」

「ちょっとだけ顔が違うもの」

「俺もまだまだじゃの…」

「そんなしょげないでよ、彼女たちには通じてたから」

持って帰るために上履きをビニル袋に入れ、口を結んでカバンに入れる。
新しいの買いに行かなきゃ。
それにしても本当に彼女たちにはイライラする。

好きだからこそそんなことをしてるんだろうけど、それが本人にばれたら…なんて考えないんだろうか。考えていないからこんなことをしてるんだろうな。

帰ったら自棄酒だ。
昨日買いに行ったお酒がまだある。

「じゃあ、帰るね。部活頑張れ」

「まちんしゃい、ほっぺた腫れとる。叩かれたんじゃろ?」

「…いつから聞いてた?」

「『内部進学』あたりから」

よかった、一応同い年の子たちを年下呼びしているところを聞かれなくて安心した。

「そっか、ほっぺたは大丈夫。心配してくれてありがとう」

「幸村にばれたくないんか?」

「それはもちろん。このこと知ってるの仁王くんと柳生くん、あとは柳くんだけ」

「そうか。しっかり冷やしとき」

「うん、ありがとう」

今回は見逃してくれるそうだ。
柳生の格好をしているから私のことを連行できないのだろう。良かった!

教室から出て行く柳生の格好をした仁王を見送って帰宅する。