「なまえ、大丈夫か?」
「……何が」
無駄にでかいお風呂にゆったり浸かって髪も乾かしてすっきりした状態で廊下に出ると蔵とすれ違ってそんなことを言われた。
「お前環境変わると途端に寝れんなるやろ」
「もう子どもじゃないから大丈夫だよ」
「ほうか…。電話くらいはしたるから寝れんかったら電話してきぃや」
「蔵は本当に心配性だよね」
「なまえが危なっかしいだけや」
ぽんぽんと撫でられてすこし安心した。
蔵の言う通り、何か変化があった日はゆっくり寝られないことが多い。
酔うと眠くなるので、お酒に頼るという方法を家だとできるんだけど今日は無理だ。
どうしようかと思ってた時に蔵のこの言葉はすこし嬉しかった。
そんなことを思って布団に入ったんだけど、寝れません。
時計を見る限り日付が変わったあたりだ。
他のマネージャーさんたちは寝静まってしまって中学生だなって感じる。
お茶でも買いに行こうと思って、2人を起こさないように外に出る。
やっぱりみんなは中学生らしく、シーンとしていて昼間とはまた違った空気が漂っている。
ガコンとペットボトルを吐き出す自販機の音が響いて誰かを起こしてしまわないか心配になった。
ベンチに座りペットボトルの蓋をあける。
この世界に来て結構な時間が経ったけれど、未だに慣れないことはたくさんあるし、前の世界の記憶なんてほとんどない。
結局わたしはどっちの世界の人間なんだろう。
「ふぅ…」
「みょうじさん?」
息を吐き出すと同時に幸村に名前を呼ばれた。
「幸村くん?まだ寝てなかったの?」
「みょうじさんこそ」
「なんだか寝れなくて」
「俺もだよ」
「お揃いだね」
ふふっとお互いに笑いあうと、隣にストンと座ってきた。
「合宿はどう?」
「まだ慣れないこともあるけど、四天宝寺のみんなとも会えたし、マネージャーさんたち優しいし今のところは問題ないよ」
「ならよかった」
いつもの夜の電話が対話に変わった感じで、いつも通りテニス部の話だとか今日のご飯の話とかをする。
幸村の声は何故か安心するから好きだ。
「みょうじさんと白石くんが従兄弟だなんてびっくりしたよ」
「似てないからよく言われる。まあ、蔵と似てるって言われたところで困るけどね」
「ふふっ、そっか」
「でも、いつもみたいにこうやって夜に幸村くんと話ができて良かった、安心して寝れそう」
「それは良かった」
「幸村くんは眠れそう?」
「うん、大丈夫だよ」
「じゃあ、」
「「おやすみなさい」」