最後に見たのは慌ててこっちに駆け寄ってくる幸村だった。
いやはや、幸村のあんな焦った顔見れたのは良かった。仁王か柳あたりが写真を撮っておいてくれないかな。
周りにいなかったし無理かなぁ…。
「みょうじさん、鍵どこかな?」
「あ…っと、カバンの中…」
「探させてもらうね」
「どうぞ〜…」
私のカバンの中をあさる幸村の姿は少し面白いけど、まさかこんなことになるなんて思わなかった。
バカでも風邪はひくんですね。
なぜこんなことになったか端的に説明をすると、
"熱が出た"
である。
朝起きた時はまだ喉が痛いかなぁくらいで頭痛もあまりなかったので、薬を飲んでなんとか誤魔化して久々に教室に上がったのだ。それがダメだったみたい。
席替えをしたらしく、教室に着くと友人たちに新しい席を教えてもらった。
なんと隣は幸村だというのだ。
彼のことだからなにか工作でもしたのではないかと思うくらいなんだけど。
頭が痛いのを笑顔で誤魔化しながら友人たちと話をする。
昨日なにがあったとか、課題のここが難しかったとか。
そんな話をしていると、朝練を終えた幸村が慌てて教室に入ってくるのが見えた。
それが私の今日の教室での最後の記憶。
気がつくと幸村におんぶされて、家への道を歩いていた。
「あれ、幸村くん…?」
「目が覚めた?突然倒れるんだからびっくりしたよ。熱も38.6℃もあったんだよ?」
「そんなに高かったの…」
「まさか自覚なかったの?」
「はい……」
はぁ、とため息をつく幸村も美しい。
華奢に見えて案外力があるらしく、私をおんぶして普通に歩けているんだからびっくりする。
やっぱり男の子なんだなぁ。
「ごめんね幸村くん、重いでしょ」
「軽すぎるくらいだよ、ご飯食べてる?」
「まあ…」
「食べてないっていう反応だね」
朝ごはんを抜くことは確かにあるけど、昼夜は一応食べてるよ一応。
部活動をしている成長期の男の子に比べたら少ないかもしれないけどさぁ。
そんな会話をしていたら以前私を送ったからわかったらしい家までついていた。
ここで冒頭の会話に戻る。
ドアの鍵を開けてもらって、玄関にカバンとともにおろしてもらう。
「部屋まで歩けそう?」
「ん、」
「女の子の部屋に入るのはさすがにマズイと思うからここで俺は帰るけど大丈夫?」
「ん」
「何かあったら連絡してね。あと、食べたいものとかあったら遠慮せずに言ってね」
「なにからなにまでかたじけない」
「薬はある?」
「薬はある大丈夫」
「じゃあ…学校戻るね」
ぽんぽんと頭を撫でてくれた幸村の手は大きくて男の子らしかったし、暖かくて思わず泣き出しそうになったのは内緒だ。