なにが起こったのかわからなかった私は忘れ物をしたことなんて忘れてひたすら走って帰った。
皆に「先に帰ってて」と言っていたため、誰にも会わずに済んでよかった。

その日の夜、旭とのLINEのトーク画面を開いて、

"距離を置きたい。ごめん。"

そう送ってスマホの電源を切った。

▽▲▽

次の日は少しだけ腫れた目をどうにか誤魔化せないかと試行錯誤したもののダメだったし、知恵熱だろうけど熱が出てしまったため学校を休んだ。

その次の日も、また次の日も旭をひたすら避け続けた。
かれこれ2週間だ。
さすがに澪と心に「何かあったのか」と聞かれたけれど、「大丈夫」の一点張りでつき通した。
スマホも「壊れて修理に出している」と苦しい言い訳をして電源を切ったままだ。

情けない。

この一言に尽きる。
なんでも話すって決めたし、話して欲しいと言われたのに結局抱え込むことしかできないんだ。
旭と付き合うこと自体が間違っていたのかもしれない。

ここまでくると負の連鎖が凄まじい。

気がつくと、体育祭が明日に迫ってきていた。
今日は予行練習で当日の1日の流れを確認したりして忙しくて旭の姿を見ることもあまりなかった。

旭の姿を見ないと安心してしまう自分がいる。

ついに今日の予行練習の時に澤村に「どうしたんだお前ら」と声をかけられてしまった。
その時は「私の問題だから」と逃げたけれど、きっと納得いってないんだろうなぁ。

どこかで話をしなければならないことは私が1番分かっているつもりだ。
でも、いざ別れ話をされるかもしれないと考えたら、自然消滅というほうが気が楽だと思う自分がいる。

予行練習を終えた放課後の教室は応援団たちの応援合戦の衣装の試着会となっていた。

「髪型どうするー?」

「ポニテでいいんじゃない?時間ないし」

「そうだね〜〜」

用事がない女子以外はみんな残って衣装合わせを見ている。とにかく可愛い。
セーラー服っぽい衣装で、動きやすそうだ。

「なまえ〜、お客さん」

ドア近くにいたクラスメイトに呼ばれて視線をそちらに向けると潔子が立っていた。
呼んでくれた子に「ありがとう」と伝えて潔子の元へ行く。

「潔子どうしたの?部活は?」

「それはこっちのセリフ。部活は明日体育祭だからって無いの。東峰と何かあったの?部活中もボーッとしててコーチに怒られてた」

「あー、それはなんかゴメン。」

「大丈夫?」

「いやー、ほんと申し訳ない!大丈夫!」

「ほんと無理だけはしないでよ?」

「はーい! 」

「じゃあ、また明日ね。」

これ以上何か言っても無駄だと思ったらしい潔子はふんわりと微笑んで教室へと戻っていった。
バレー部のみんなに迷惑かけちゃってるのは本当に申し訳ないなぁ。

でも、まだ話す勇気なんてないからゴメン。

さっきまでいた女子の輪に戻って衣装合わせを手伝うことにしよう。
明日は体育祭だ。