ピピッと脇に挟んだ体温計が音を立てる。

「38.0……」

「ほら、やっぱり熱ある…」

保健室の先生に「会議あるからちょっと行ってくるね。体温計これ使って、休みたかったらベッド使っていいからね、じゃあ東峰くん頼んだわよ」と言われたので、保健室で旭と2人きりだ。
保健室の先生は無駄に滑舌がいい。
若くて綺麗な先生だから、男子生徒からも女子生徒からも人気が高い。

「確かにちょっとぼーっとはするけどここまで高いとは…」

「もう放課後だし、原田達には言っておくから帰る?………やっぱり俺の部活終わるまで寝てて」

「へっ、」

「バレー部ももう少しで終わるから、絶対待ってて。」

そして、「原田達に言って見張ってもらっておくから」と言って、私を布団の中へと押し込んで出て行ってしまった。

何事だろう。

もしかして、別れ話だろうか。
めんどくさい女だと思われて、愛想を尽かされたのだろうか。
どうしよう。

「なまえ〜、東峰から見張り頼まれたから来たよ〜」

「生きてる〜?」

扉が開いて澪と心の声が聞こえた。

「生きてるけど死んでる」

「……え?なまえ何泣いてるの!え!東峰にいじめられた?」

「部活終わるまで待っててって…。きっと別れ話だ…」

どうしよう、と両手で顔を覆うと澪と心が「……なんだ」と呆れた声をあげた。
人が悩んでいるのに…と思ったけれど、2人は大体こんな調子だった。

「なまえを家まで送るためでしょ?」

「なまえが無理しすぎたから東峰もちょっと強引なんだよ。私たちには話すのに、東峰には話さないんだもん」

「心配かけたくなくて……」

「まあ、東峰来たら真相わかるからそれまで病人は寝てな?来たら起こしてあげるから」

「うん……」

▽▲▽

ぼやっとした意識の中で澪や心、旭の声が聞こえてくる。
何を話してるのかわからないけれど、まあ私のことだろう。

ベッドから降りてカーテンを開けると、心と澪が椅子に座る旭を取り囲んでいた。

旭が立ったままだと話しにくいんだろうけど、面白い光景。

「あ、なまえ起きた?大丈夫?」

「まだちょっとボーッとするけど大丈夫」

「東峰が送るって言ってるから任せるね。なまえが思ってることは絶対にないから」

「………うん」

荷物を教室から持ってきてくれたらしく、保健室の机の上に置かれていた。
それを取って行こうとしたけれど、旭に持ってもらうことになって私の手は行き場を無くした。

そういや、お姫様抱っこでここまで運ばれてきたけれど、クラスの子達はどう思ってるのだろう。
明日の学校が不安しかない。

靴を履き替えて、旭の隣を並んで歩く。
太陽が沈むのが少しだけ早くなった。

「なまえさ、無理しすぎだよ」

「無理はしてない」

「我慢ばっかりさせてる俺が言うのもなんだけど、迷惑だって思って我慢するくらいなら我慢しないで。我慢される方が俺はツライ」

「うん。」

「……だから、なんでも話してほしい」


ぽつり、と旭が呟いた。