体育館にみんながモップがけをしている。
他の応援に来ていた生徒や保護者は続々と下に降りて帰っているけれど、私は縛られたように動けなかった。
「なまえ大丈夫?」
「あー、う、ん…。私が知らない旭がいてびっくりした…。当たり前なんだけど、潔子や仁花ちゃんは知ってるのに私だけ知らない旭がいた。」
「うん」
「当たり前なんだけど、当たり前だってわかってるけど」
「うん、」
「ツライ」
バレー部のみんなには届かないような声で澪に吐き出す。
女の子の日も終わって、旭充電だってしたはずなのに。楽しみだった練習試合なのに。
「なまえ泣きそうな顔してる、東峰に見つかるよ」
「それは困る!西谷たちにバレても困る!よし、大丈夫!生きてる私!」
「ちょっと最後の言葉は意味わかんない」
旭にはできるだけ心配かけたくない、という気持ちをわかってくれている澪のおかげでできるだけ笑顔になるように頑張れる。
こんな顔もう見せたくない。
少女漫画の可愛い主人公なら、ここで彼氏に泣きながら不満をぶつけるんだろうな。
そして、優しい笑顔で抱きしめてもらうんだろうな。
自業自得すぎて笑えてくるや。
「心呼び出していつもの場所行く?」
「んー。大丈夫!自分の中でちゃんと整理できる」
「無理しちゃダメだからね。本当に」
「生きてるから大丈夫〜!とりあえず下降りよっか。潔子達と話したい」
「ほいほい」
なかなか動かなかった私たちを不思議に思っていたらしく、上から降りてきた私たちに潔子が駆け寄ってきてくれた。
「なまえまた無理してますって顔してる」
「潔子は鋭いね」
「東峰には見せないように澤村と菅原が動いてくれたから」
「さすが3年!ありがとう」
「ほんとなまえ愛されてんね」
「いぇーーい!さすが私??」
「うざい」
「澪、それはさすがに傷つく」
いや、本当に愛されている。ありがたさしかない。
ハーゲンダッツおごりたいくらいだ。
とりあえず潔子とはオフの日に遊ぶ約束をした。
仁花ちゃんにも遊ぼうね、と声をかけるとものすごく可愛い返事をしてくれたし、なんか西谷たちまでのってきた。
とりあえず、西谷たちと遊ぶと絶対にバッセンかボーリングかの二択だから遠慮したい。
課題とっとと終わらせなよ?と煽っておいた。
「旭、おつかれさま!」
「ありがとう」
「かっこよかった!!さすがだね。」
「いや…そんなこと……」
「そんなことあるから言ってるんでしょ!!あ、明日のこと今日の夜にLINEするね!!」
「うん、じゃあまた」
「またね」
よし、ちゃんと笑えてたはずだ!!
明日はちゃんと勉強するんだ…!!