「え、なまえと東峰って一緒に帰ってないの?」
「うん。私帰宅部だし、東峰もバレー部のみんなで坂ノ下寄って帰ってるって相当楽しそうに話すんだから、バレー部の方断ってもらうわけにはいかないじゃん?」
はぁ。とお昼ご飯を一緒に食べている友人…心と澪にため息をつかれた。
そんなに驚くことなのか?
「あんたたち付き合って何か月なの」
「今月で3か月だよ」
「3か月付き合ってて一緒に帰ったこともないし、手もつないだこともないって…」
「休日も部活だし、放課後も部活だしね。しょうがないよ」
「デートも片手で数えるくらいしかしたことがないよ。」と言うと、「ちょっと東峰殴ってくるわ」と席をがたがたと立ちあがったのはさすがに焦った。
友人たち曰く、私たちは”不思議なカップル”だそうだ。
私がバレーをしている東峰を初めて見たのは高校2年の球技大会だった。
私の高校の球技大会は所属してる部活の競技でも参加していいルールになっている。
東峰は1年のころからバレーに参加していたらしいけれど、1年の球技大会は見事に熱を出して欠席したのだ。
当たり前のことのようにジャンプをしただけでネットから顔が出ていてびっくりしたのを覚えている。
あの時の東峰がものすごくかっこよくて、今思えばそこからずっと好きだったのかもしれない。
3年になって同じクラスになったときは、神様に感謝した。
ノート運びを先生に押し付けられたときは手伝ってくれたし、背の低い私が黒板の上の方を消そうとして格闘しているときには助けてくれたりもした。
長髪に髭の風貌は他校生やかかわったことのない人に取ったらとても怖いものなのだろうけれど、実は優しくてビビりなかわいいところもあるのだ。
「贔屓目だ」と言われたらそこまでなのだけれど。
彼に告白したのは、4月の中旬だったと思う。
私としては記念日とか祝いたい!というイマドキ女子じゃないし、記念日なんかに縛ってバレーに集中できなくなったら困るから気にしないようにしている。
「好きです。付き合ってください」と緊張しながら告げると、少し焦って「俺でよければ…」とヘラっと笑ってくれたのだ。
この優しい笑顔が私は大好きだ。
「なまえのことだから、”バレー優先して”とかって言ってるんでしょ」
昔のことを思い出していたけれど、心に話しかけられて現実に戻ってきた。
「え、あ、うん。最後の年だし、春高まで残るって言ってたし。来週からの夏休みも合宿で東京行くって言ってたよ。強豪校と対戦できるってウキウキしてた」
また一斉にため息をつかれた。
「なまえも東峰もバレー馬鹿だよね。」
「なまえのは東峰のがうつったんでしょ」
「まあ、私だって手をつなぎたくないとかデートしたくないっていったら嘘になるけど、バレーをしてる東峰に惚れたのは事実だもん。我慢する」
お弁当の中の卵焼きを1つ口に運ぶ。
そういやお昼もあんまり一緒に食べたことないなぁ。
澤村と菅原とバレーの話しながら食べてるんだろうなぁ。