「みょうじ、ごめん待たせたよね?」
「ううん…大丈夫なんだけ……ど…」
「ど?」
「浴衣…………」
「ああ、これ…。整理してたら浴衣が出てきたらしくって、母親に『花火大会行くなら着て行きなさい』って言われてさ…」
名前を呼ばれて旭の方を見たのはいいけれど、目の前にいたのは浴衣を着た旭だった。
浴衣を着てくるなんて微塵も思っていかなったし、心たちにも「旭は浴衣じゃないだろうから、浴衣じゃなくてもいい?」とわがままを言いつづけていたのだ。
浴衣を着てきて本当に良かった。
「浴衣着てくるなんて思わなかったから、びっくりした。似合ってる」
「ありがとう…みょうじも似合ってるよ」
「ありがとう……」
「……じゃあ、行こっか。」と自然に手を差し出してきた旭の手を握る。
この前まで手すら繋げなくて、心たちにも怒られていたというのに。
カラコロと2人で下駄を鳴らしながら花火大会の会場へと向かう。
「そうだ、去年、心たちと来た時に花火が綺麗に見える穴場スポット見つけたんだけど、花火上がるときはそこいかない?人少ないけどベンチとかあってゆっくり見えるの!浴衣でも大丈夫だったよ」
「うん、じゃあ、そこいこっか」
「でさ、いちご飴食べたいんだけど屋台寄っていい?」
「りんご飴じゃなくて?」
「りんご飴は齧り付かなきゃだめだし、口周りベトベトになるんだもん…いちごのほうが食べやすい…」
去年、りんご飴を買って食べようとしたけど、硬かったし、女子としてはあまりしたくないかじりつくという行為をしなきゃいけなくなったため、家に持って帰って、真っ二つに切って食べた記憶が脳裏をよぎる。
「わかった、待ってて。買ってくる」
「?!いいよ!!自分で買う!」
「いいから、待ってて?」
子供に言い聞かすように私を優しく諭していちご飴を買いに行く旭。
とりあえず、いちご飴が似合う風貌ではないし、店員さん女の人だから少しごめんなさいって感じだ。
黙ってたら威圧感本当にすごいからなぁ。
東京合宿で、舌打ちをしたと潔子から聞いたけど、怖かったんだろうなぁ。
仁花ちゃんが少しビビってたって言ってたし。
「はい、」
そんなことを考えていると、旭がいちご飴を片手に帰ってきた。
本当に似合わない。
「ありがとう、旭にいちご飴はあんまり似合わないね」
「知ってる……」
「へこまないで!!いちご飴が似合う男の子自体あんまりいないでしょ、小学生じゃないかぎり」
りんご飴を少しずつ食べながら、屋台が並ぶ道を歩いていく。
焼きそば 食べたいけど、彼氏の前で食べる勇気はまだない。
"可愛い"彼女でいたいから。
この前のファミレスで下ネタ話してた時点で、その位置付けは諦めるべきなんだろうけど。
下ネタ耐性がないのは男子高校生としていかがなものか。
女子の方がえげつないとは聞いたことがあるけど、さすがに旭の弱さにはびっくりした。
こんなことでびっくりしてる時点で"可愛い"彼女ではなくなっていることに私は今気がついた。
「今日の部活は楽しかった?」
「新しい技とか練習してて思い通りにはいかないけど、これが試合で決まったらもっと楽しいんだろうなぁってなってたよ」
「バレー部いつの間にか強くなっちゃったね」
「もう悔し涙は流したくないからさ」
「うん、かっこいい。」
「………!えっ…とありがとう…。今日はさ俺の好きなものの話じゃなくてなまえの好きな物の話聞きたい。いっつも聞いてもらってばかりだし。なまえのこともっと知りたい」
ふんわりと笑う旭は無自覚たらしなのではないかとここ最近思う。
そして、散々照れてた名前呼びもあっさりしてきやがった。
悔しい。
でも、そこも好き。