「よし、できた!」
花火大会当日。
心にされるままに髪をいじってもらう。
「すご………」
「一つくくりにした後に、くるりんぱして、余ったの押しこんでピンで留めて髪飾りつけただけ」
「いや、わかんないから…」
こういうヘアメイク関係にはめっきり弱いため、心の説明はよくわからない。
澪はメイクをしてくれる。
至れり尽くせりすぎて申し訳ない。
浴衣は白地に青の花と赤い金魚のやつをお母さんが着付けてくれた。
帯もちゃんと結んでくれた。
自分で着付けができるようにならなきゃなぁ。
「じゃあ、そろそろ行ってきます」
「行ってらっしゃい」
お母さんに見送られて家を出る。
嘘をついているから背徳感がすばらしい。
「東峰とあれから連絡した?」
「してないよ…緊張して吐きそう」
「いや、吐かないで」
カラコロと下駄を鳴らして、町内を歩く。
金魚帯をつけた女の子たちが後ろから走ってきて、抜いていく。
お母さんたちが「走らないで!」と言っている。
待ち合わせの駅に行くためには、坂ノ下の前を通るのだけど、バレー部のコーチが普通にレジに座っていて、びっくりした。
あの人は結局何者なんだろう。
「そういや、なまえと東峰って身長差何センチなの?」
「なまえも女子の中じゃ平均くらいかそれ以上じゃん?だけど、結構身長差あるじゃん」
「20cm以上じゃないかな?旭の身長詳しくは知らないけど…」
「結構あるねー…」
「おかげで首が痛いよ」
「それは大変そう」
駅に近づくにつれて、吐き気がハンパなくなる。
帯はいつもと同じだし、緩いくらいだ。
「ねえ、帰ってもいい??」
「ダメに決まってるでしょ、せっかくのデートなんだよ?次いつ行けるかわかんないんでしょ?なまえは我慢しすぎだからデートなんて自分から誘わないでしょ」
「まあ、そうだけど……、でも、ハードル高すぎ。浴衣似合ってないし、もう死にそう」
「浴衣って胸ない人ほど似合うんだからね?」
「まって、胸の話はもうやめて、寂しくなる」
心と澪の話で気を紛らわせて、待ち合わせの時間の10分前に駅前に着くことができた。
澪が時間に結構厳しいので、早めに家を出ることになったのだ。
「じゃ、私たち行くから。東峰によろしく言っといてね」
「がんばれ〜」
「う、うん…がんばる。生きて帰るね…!」
「戦地に行くわけじゃないんだからね?」
「ある意味戦地」
「なまえの語彙力が面白すぎだわホント。じゃあ、頑張ってね」
「ありがとう!」
花火大会に向かう心たちを見送って、戦争に備える。
髪型おかしくないかな、浴衣着崩れてないかな、ちゃんと笑顔で話せるかな。
なんて、考えてしまうほどには恋する乙女なわけで。
去年の今頃じゃこんなこと考えられなかったし、昨日まで考えられなかった。
自分でも知らなかった私を旭といると発見することができる。
「みょうじ」
吐き気がピークに達した頃、旭の声で名前を呼ばれた。