澤村と菅原と旭は課題を進めるためにファミレスに来たところを私たちに捕まったらしい。
正しくは心と澪に、だけど。
結局、隣の机に座った旭たちも巻き込んで森然であったことの報告会になったのだった。
「澤村たちが知ってること全部話して?」
「心それ半分脅しだから」
「俺らもあんまり知らないけど、パーカーかしてたよな」
「あー、コンビニのやつな」
「あとは、2日目?3日目?くらいに夜に2時間くらい話し込んでたよな」
まて、澤村。正直に話してどうする!
心と澪の目がキラキラし始めたじゃないか!
「パーカーは私が上着着ずにコンビニ行ってただけで、夜に会ったのはそれ返すためだからね?第一、それ以来合宿中は会ってないし…」
「いや、それでも重大な出来事だよ…………」
「なまえも大人になったのね……」
何を感動することがある。
あと旭は逃げようとしてドリンクバーを取りに行くな!
ここにいろ!と思ったのも虚しく、席を立ってしまった。
名前で呼び始めたということは澤村たちには伝わってないらしく、一番騒がれそうな話題は避けることができた。
「あ、東峰逃げた」
「心も澪ももう満足した…?特に大したことはなかったでしょ?」
「うーん、何もなさすぎて違和感」
うーん、と首をかしげる澪。
そんな話をしていると、ドリンクバーから旭が戻ってきた。
「あ!そうだなまえ、今年は従兄弟のお兄ちゃんどうだった?意地悪されなかった?」
「今年は逆に助けられたよ。あさ…東峰のパーカー借りたときはお兄ちゃんの物にさせてもらってお母さんたち逃げ切ったし」
「あれ、みょうじって親に話してないの?」
話してるもんだと思ってた、みたいな顔をして課題から顔を上げた菅原。
この前騒いでた1年生の女の子にこの顔を見せてあげたいくらいに珍しい顔をしている。
「お父さんがショック受けそうだからまだ黙ってる」
「なまえのお父さん娘大好きだからねぇ」
「門限ゆるいけど、恋愛面はねぇ」
「「頑張れ東峰」」
ぐっとサムズアップを旭に向けてやる2人。
コンビニで話してる時もその話をしたけど、本当に頑張れとしか言いようがない。
「で、夏休み前の議題に戻るけど、名前呼びはどうなったの?」
はい来たー!来ると思ってましたー!
旭は相変わらず名字呼びですー。
合宿中に音駒のキャプテンの黒髪ツンツン男にも言われたし、澤村にも言われた。
ほんと、そろそろ名前呼びをしなきゃいけないんだろうか。
いけないわけではないだろうけど…。
「それは…」
「え、まだなの?」
「まだだよ…さっきも私東峰って言ってたじゃん…」
「あれ、みょうじは旭のこと旭って呼んでなかったか?清水が嬉しそうな顔して、『なまえがLINEで東峰のこと旭って呼んでた』って言ってきたけど…」
「菅原!!その話を詳しく!」
菅原!なんでそんな話するの………!
あーあ、これで旭が責められること確定じゃん…。
旭はまだ名字から抜けられてないのにさ。
潔子には帰りが遅くなった時の言い訳のために口裏合わせてもらうようにお願いするときに、コンビニであった事を少しだけ話したのだ。
多分その時うっかり、旭と書いたんだと思う。
潔子は何も悪くない。それを心と澪に話す菅原が悪いのだ。
「なまえ、なんで黙ってたの?」
「黙ってたっていうか、心たち騒ぎそうだし、旭が名前呼び慣れてからのほうがいいかなって…」
「旭だって!名前呼び本当にしてた!」
「おお。みょうじが旭を旭呼びしてる…!で、旭は?」
「俺はまだ…」
「「「は?!」」」
菅原、心、澪の声が重なった。