「へ?」

「お前ら付き合ってんだろ?なんで名字呼びなんだ?」

さぞ、名前呼びが当たり前だと言わんばかりにそんな質問を投げかけてくる黒尾。

澤村も呑気に「そういやそうだな」なんて言っている。

まあ、世の中のカップルで名字呼びなのは私たちのところだけだ!と澪に言われたことがあるけれど。

「旭もみょうじも付き合う前と付き合ったあとじゃあんまり雰囲気も変わんなかったし、言われなきゃわかんなかったしな」

「なんか、急に東峰を名前呼びにするのむず痒くて」

「俺もそんな感じ…かな」

「なんだそれ、小学生でも付き合ってる奴いるような世の中で……」

「それ私の友人にも言われた」

やっぱりな、みたいな顔をしないでくれ、黒髪ツンツン男。
黒尾という名前よりもこっちのほうがしっくりしすぎる。

「休憩終わりー!練習再開しまーす!」

「おりょ、これから面白そうだったのに。じゃあまたなみょうじさん」

「もうお会いしたくないですね!!じゃあ、澤村も東峰も部活頑張ってね」

「うん、連絡する」

ひらひらと手を振って皆んなを見送る。
モヒカンがぺこりとお辞儀をしてきたので笑顔で手を振ると、ショートしかけていた。
西谷に「旭さんのって言ってるだろ!」とか言われていた。
大声で言うのやめさせてって後で3年生軍団に頼んでおこう。

さっきまでスイカが乗っていたお皿を回収して食堂へと戻る。お昼ご飯を作る時間だ。

とりあえず、黒尾は要注意人物だな。怖い怖い。

▽▲▽

晩御飯も作り終わって、帰宅すると「お風呂わいてるから先に入って〜」とお母さんに言われてしまった。
東峰の練習が終わったあとに会う約束をしているというのに。
でも、あとがつかえては困るから先に入ることにした。

「パーカー」

「あ、ありがとう」

お風呂から出て、ドライヤーで髪を乾かしていると従兄弟のお兄ちゃんがパーカーを持ってきてくれた。

「どうせこの後会いに行くんだろ?ついでにハーゲンダッツ買ってきて」

「高校生にたからないで」

「えーー、じゃあ、おばさんたちに言っちゃおうかなぁ」

「あー!もうわかったわかった買ってくるから!」

ニヤニヤとしながら挑発してくる従兄弟のお兄ちゃんに呆れながら髪をか乾かし終えたので、晩御飯を食べることにした。
珍しく魚が並んでいたので、明日は雨だと思う。

晩御飯が終わって携帯を見ると、2分前に東峰から"練習終わった"というLINEが入っていたので、"今から行くね5分で着く"とLINEを送り、母親に「コンビニ行ってくる」と伝えて、ちゃんと薄手の上着を羽織り家を出た。
「ハーゲンダッツよろしくー」と叫ぶお兄ちゃんのニヤニヤ顔が忘れられない。
あの人絶対彼女いない。