東峰を散々からかって帰ってきた心の顔は晴れ晴れとしていて、対照的に東峰はどんよりとしていた。
本当にごめん。

「からかいついでに、そろそろ名字呼びやめな?って言っておいたから」

「?!?!まって、何言ってるの?!私そんな心の準備できてない!」

「それはどうせ東峰も同じだから心配しなくていいよ」

ぽんっと肩に手を置かれたけれど、大丈夫なわけがない。
昨日のことで胸がいっぱいでご飯すら食べれなかったというのに!

机に突っ伏していると、「なまえ」と潔子の声が廊下から降ってきた。
クラスの男子がざわついている。

「潔子」

飛び上がり、潔子に駆け寄る。
今日も美しい。西谷達が騒ぐのは本当にわかる気がする。

「昨日は大丈夫だった?」

「おかげさまで。潔子もありがとう。ネックレス」

「東峰に『これ可愛いって言ってた』って言っただけだから」

「それだけでも嬉しい。本当にありがとう」

「本当によかった」とほほえむ潔子は女神だと思った。
クラスの男子だけじゃなくて女子までザワッとした。
この笑顔を近くで見れるのは友達の特権だぞ!いいだろう!と心の中で優越感に浸っていると予鈴がなったので、「またね」とひらひらと手を振った潔子を見送る。

そういや、明日から夏休み。まあ明日は土曜日だから夏休みという感じはしなくて、皆、夏休みは来週からだって言ってるけど。
いわゆる今日が終業式。


私は今日帰ったらすぐに埼玉のおばあちゃん家にいく。
いとこなどがたくさん集まるため、1週間ほど向こうにいることになる。
そうそう、昨日東峰に聞いたら、来週の火曜にここを出発して東京に行くらしい。

夏休み中は東峰と遊ぶ約束をしていなくて。
心と澪とはしてなくても、緊急招集がかかったりするから嫌でも会うことになるだろう。楽しくていいけれど。

SHRも終わり、終業式のために体育館に移動する。
きた順に並ぶため、真ん中の方で居眠りを企んでいる私たちはうまくうまく調節しながら体育館へと足を運んだ。

▽▲▽

帰ってきた通知表には目を伏せて、これから始まる夏休みに胸を踊らせるクラスのみんな。
受験生ってこと忘れるなよー!と教卓で叫ぶ先生の言葉もむなしく、みんな教室からワラワラと出て行った。

さて、私も帰っておばあちゃん家にいく準備をしなきゃ。
今回は何を持って行ってあげようかな〜
るんるんしながら、心たちと別れて家へと帰る。

そういや、去年おばあちゃん家に行った時はお父さんの母校と聞いた高校でどっかの運動部が合宿をしていたみたいだ。
コンビニに行った時に、色とりどりのジャージが走っていくのを見かけた。
体力勝負の吹部かな?とも思ったりしたけれど、女子が1人もいないので勝手に運動部に認定させていただいた。
吹部だったらごめんなさい。

「ただいま〜」

「おかえり!ねえなまえ。あなた夏休み中1週間だけバイトしない?」

「へ?帰ってきてすぐの娘に何言ってるの」

「実はね、お父さんの母校の森然高校で合宿があるらしいんだけど、食堂のおばちゃんが足りないらしくってお手伝い探してるんだって」

「ふーん」

「で、近所の人に募集かけてるって連絡がおばあちゃんから来たのよ。『なまえならどうかね』って。期間もちょうどおばあちゃん家に行ってる時だからさ」

そっか合宿とは言ってもそこの学校の食堂のおばちゃん達にご飯を作ってもらってるのか。
潔子もマネージャーの仕事だけでとっても大変そうだから食事の方には手が回らないんだろうなぁ。

仮にも受験生の娘にバイトを勧めてくる母親は世界中探しても私の母親だけだろう。

ご飯作りだけに人が足りないらしくそこだけ来てほしいらしい。
配膳は学生側がやってくれて、片付けはおばちゃん達に任せていいらしい。
朝は5時集合、昼は10時半集合、夜は5時集合らしい。
ご飯を作り終わったら一旦帰って集合時間に食堂に行けばいいらしい。
料理は好きな方だし、おばちゃん家も暇だったりするから快く受けることにした。