あの後はぐっすり寝てしまっていたらしく、目がさめると次の日の朝4時だった。

あー、このまま二度寝するとさすがに寝坊しそうだ。
頭も体も軽くなったし外にでて空気でも吸ってこよう。
自分の学校だから、何も遠慮することなんてないし。

……朝早い音駒は初めてだ。

誰もいない朝の空気が漂う体育館は久しぶりだ。

「あっ、」

体育館の端に片付け忘れのバレーボールが転がっている。
都合よく転がりすぎだ。

忘れられるものならもうとっくに忘れてるし、黒尾なんかに関わったりしない。昨日今日だってここにいたりしない。

結から大地の話を聞くたびに中学時代が懐かしくて仕方なかった。
何も気にせずガムシャラにバレーをやれてた頃に戻りたかった。

「馬鹿野郎…!」

バシンッと思いっきりネットの向こう側にボールを打ち込む。
ネットはどうせ明日も練習があるからと出しっ放しにでもしてたのだろう。
今回の合宿は今日までだ。
次は夏休みのはず。毎年黒尾から話を聞いていたから間違いない。

「……私だってバレーしたいのに」

サーブを打つくらいじゃ足は痛くならないけど、ランニングなどの足に負担のかかるものは全部ダメ。ドクターストップだ。

結は私の代わりに思いっきり泣いてくれた。
私が泣けないから。大地がそばにいつもいたから。大地に心配かけたくないって言ってた私の言葉を覚えてくれていて、泣いてくれたんだ。

冷たいものが頬を伝うのを感じる。

何泣いてんだ私。

「みょうじ?」

「?!夜久くん…」

「早起きだな」

「まあね、目が覚めちゃって!夜久くんは?」

「俺もそんなとこかな。」

涙をぐいっと拭い夜久くんの方を向く。
声をかけられた時間的に涙もサーブも見られていないはずだ。

「黒尾からよく聞いてたけど、本当に生川や森然って強いんだね」

「ほんと負けてらんないよ。……あのさ、みょうじが烏野の主将を避ける理由って聞いてもいいか?」

「うーん、私バレー辞めたって言ったでしょ?あれ病気のせいでさ。大地は幼馴染でその当時私の周りの誰よりもバレー馬鹿だったから、大地から離れたら忘れられるかなぁって単純な考え。まあ、父親の転勤がちょうど被ったってのもあるんだけど」

「………そっか」

「命に関わる病気とかじゃないからね?!激しい運動ができないだけだから!じゃなかったら、今ここに私はいないもの」

「ならよかった。昨日の夜、黒尾が"みょうじが軽い熱中症らしい"って言っててウチの奴ら慌てたんだよ」

「ふふっ、心配してくれてありがとう!よし、みんなそろそろ起きてくるだろうし朝ごはんとかの用意してくるね。また後で!」

ネットの向こう側に落としたボールを拾って倉庫の中に投げ入れる。
さようならバレーボール。

そろそろ潔子ちゃんたち起きてくるかなー?
合宿最終日も頑張りましょ〜!

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