髪色を落として乾かし終わった頃に、玄関が開く音がした。
蛍くんが鍵を持っているか不安だったが、お母さんが朝のうちに渡していたようだった。

「あ、おかえり〜!制服のままでいいから買い物行こう」

そう言って鞄を持ち、靴を履き蛍くんが帰ってきてすぐだというのに家から連れ出す。
しっかりと鍵をかけていこうとすると蛍くんからの視線を感じて振り向くと少し不思議そうな顔をしていた。

「なに?」

「いや、髪の色違うだけで印象変わるし、性格も変わるんだなーって」

「そんなに性格変わってるかな?てか、蛍くんお腹空いてるでしょ?醤油切れてたから坂ノ下寄ってから嶋田マートいこ!」



坂ノ下に着いたのはいいけれど、中にはまだ澤村先輩や菅原先輩、日向くんに影山くんに田中くんが残っていた。
田中くんに至っては頭しか見えなかったけど、あのメンツの中にいる坊主は田中くんだけだ。

「蛍くん!え、あの人たちまだいるの?!」

チラッと中の様子を伺う蛍くん。
蛍くんの顔からするにもう帰ったものだと思っていたような感じだろう。

「そうみたいデスネ」

「多分、ばれないだろうけど、蛍くん迷惑でしょ?女の子と一緒にいるなんて。田中くんとか1番うるさそう…」

「別にいいですよ。やましいことしてるわけじゃないですし。」

そう言って、店のドアをガラガラっと豪快に開ける蛍くん。
この子、肝座りすぎかよ。ホラーとか絶対に怖がらないうえにバカにしそうな感じだ。

どうしたんだ忘れ物か?という澤村先輩の声が聞こえてきて数時間前まで一緒にいたからバレたりしないだろうかと少しだけ自意識過剰になりあたふたしていると、醤油買いに来ました。ねえ、いつまで外にいるの?と声をかけられお店の中に入らざるを得なくなった。

「つーきーしーまーくーん?この美人は誰だゴルァ彼女かゴルァ」

「違います。」

「あ、け、蛍くん!」

田中くんに物怖じすることなく醤油が置いてある棚にスタスタと歩いていく。
この現場に私をぼっちにしないで!という心の叫びも虚しく、バレー部の皆さんの近くで置いてきぼりにされてしまった。

「あ…の!月島の彼女じゃないって本当…ですか?」

日向くんが話しかけてくる。
あ、この子こんな可愛い顔してたんだ、と思うくらい私は日向くんの顔を今までちゃんと見てなかったんだろうなぁと思う。

「あ、うん…。知り合いなだけだよ?」

「なまえさん、醤油買えました行きましょう」

そうグイっと右手を引っ張られる。
視界の端でバレー部の皆さんが驚いている顔が見える。
あ、手をつながれてる。そう思った時にはもうお店を出てしまっていた。

「挨拶してない…」

「いいですよ、多分。あの人たちそんなの気にしないと思いますヨ?」


「ならいいんだけど…蛍くんの印象悪くなったらダメじゃん!どうしよ…」

「あのさぁ、ずっと気になってたんだけど、なまえさんってなんでそんなに俺のこと気にかけるんですか」

「蛍くん、部員にも他人にも一線引いてて何だか寂しそうなんだもん」

ボソッと呟くと、ものすごく不思議な顔をしていた。

「部活なのにこんなに必死になるなんて、とか、高校生活だけの友人なんて、とか思ってて山口くん以外と関わろうとしてないでしょ?部活見てて思ったよ」

「なまえさんって透視とかできる人間デスカ」

「いや、別に?特には何も能力ないよ?特技をあえて言うなら、変装かな」

「それは知ってマス」

「だよね。嶋田マートいって晩御飯決めて早く帰ろうね、何食べたい?」

「なんでもいいですケド、ショートケーキ食べたいです」


初めて蛍くんの願望を聞けて私の心はパァッと明るくなったに違いない。あの、蛍くんが自分の気持ちを伝えてくるなんて…!

「じゃあ、明日ショートケーキ作って家で待ってるね」

「わかりました」

「早く買い物して帰ろうね」

私たちの手は嶋田マートでお会計するときだけ外れて、家に帰るまで離れることはなかった。
でも、きっとこの手にお互い意味はないだろう。