清水先輩のお手伝いをする、という理由づけで体育館の中へ入れることになったけれど、緊張はするもので。

どうぞ、なんて優しく微笑みかけてくれる清水先輩に後押しされて、ドリンクボトルを持って体育館の中へ入る。
休憩していたのか皆の視線が一気に私に集まる。

朝の、だとか、月島の、だとかちょっと私には意味のわからない分かりたくもない単語が部員から聞こえてくる。

「ドリンクとかたくさんあったからみょうじさんが手伝ってくれたの。ね?」

「は、はい!」

「あー、そーいうことね」

と納得するのは澤村先輩。
近くで見ると一段とガタイが良くて、飛びつきたい背中をしているなぁと思う。
菅原先輩は優しそうに笑うけれど、何かを感じていそうな顔をしている。

「よかったら、練習見ていく?」

と声を出したのは菅原先輩。やっぱり何かを感じているでしょ?!

「ご迷惑じゃなければ」

「じゃ、決まりな!」

そう言ってみんなは練習へと向かっていった。
さすがにぼーっとしてるのは申し訳ないので、清水先輩のお手伝いをして過ごしていた。

「じゃ、今日はここで終わるか〜!片付け〜!」

「「「アッス!!!!」」」


バレー部全員の声が揃うとかなりの迫力である。
ドリンクボトルを洗いに行く清水先輩のお手伝いをすべく後ろをついていこうとすると、澤村先輩から声をかけられた。

「みょうじさん。この後部員全員で肉まん食いに坂ノ下行くんだけど、一緒にどうかな?」

まったく予想していなかった言葉を聞かされて目を少し見開く。
いや、どっちにしろ行けないんですけど…。
坂ノ下商店で醤油買って、そっから嶋田マートいこうと思っていたが、一回家帰って髪色落として乾かして行こう。うん。

「すみません…この後晩御飯の買い物して帰らなきゃダメなんです…」


「そっか。じゃあ、また行こうな」

そう爽やかに笑った澤村先輩は部室の方に向かって行ってしまった。
そして、視界には蛍くんオンリー。

「なまえサン。どうしますか」

「蛍くんはバレー部で坂ノ下行くでしょ?その時間に私、一回家帰って髪色落とすから蛍くんが家帰ってきてから買い物いこ?冷蔵庫の中も確認したいし」

「わかりました…。」

少しなにか言いたげな目をしていたけれど、バレー部の皆とちゃんとコミュニケーションをとってもらわなきゃ困る。
とっとと着替えてきて、と背中を押して部室へと追いやる。

今日、少しだけ見させてもらった練習で蛍くんは他の部員(山口くんは除く)とまったくと言っていいほど会話がない。
偶に口を開いたと思えば影山くんに対する嫌味だったり、日向くんに対する嫌味だったり。
私が言うのも難だが、こんなんじゃ、チームとしてダメだろう。
まあ、あの性格じゃあ無理だろうな。

「みょうじさん、お家どこ?送って行くよ」

なんて清水先輩に声をかけられたけれど、こんなお美しい先輩と一緒に並んで歩くなんてめっそうもないし、急いで帰らなきゃいけないから丁重にお断りさせてもらった。

そこからの私の行動は早かった。
清水先輩にサヨウナラと挨拶をすると、鞄を抱え、靴を履き全速力で家へと帰る。
急がないと、髪色を落とす前に蛍くんが帰ってきてしまう。
部活終わりの男の子にご飯のおあずけなんて拷問だろう。
少しでも早く買い物に行けるようにしないとね。

私は走りながら誰かにご飯を作る楽しさを噛み締めていた。