待っててくださいと言われたものの、どこでいつまで待ってればいいのだろうか…と考えているといつの間にか放課後になってしまった。
西谷くんには今朝のことは突っ込まれないで済んだけれど、きっと他の部員さん、特に菅原先輩とか澤村先輩とかには物凄く怪しまれてるだほう。

「なまえ〜?帰らないの?」

何も知らない杏樹がいつも通り帰ろうと声をかけてくるが、私の本当の姿を知っているから蛍くんとの事情を話した方がいいのかなぁ、と思いつつめんどくさいことになりそうなので、話すのはやめておこう。

「ちょっと用事あるから、先帰ってて?」

「待ってるよ?」

「あ、いや、いいよ!最終下校時間まで待たなきゃダメになるかもだし」

「1人でなまえを帰すのは心配」

心配してくれるのはありがたいが、襲われたりする心配はない。
いや、無差別殺人が起こったら別だけど。

「大丈夫大丈夫。もう6時過ぎても明るいしね」

でも…となおも食い下がる杏樹の背中を押して教室から追い出す。
クラスメイトがどんどんと減っていく。
基本的に部活に入っているためクラスにはほとんど残っていない。
皆のいなくなった教室はこんなにも広かっただろうか…。
放課後に教室に残ることなんて滅多にないから少し新鮮。

そっと廊下に出て、窓から第二体育館を見つめると、3年の東峰先輩が澤村先輩と話をしているのが見えた。
そーいや、西谷くんが花瓶を割ったのって東峰先輩と喧嘩をしたからだと風の噂で聞いた。

青春だなぁ…。帰宅部で、おとなしいキャラ演じてて自分を偽っている私には程遠い言葉だ。

「で、結局いつまでどこで待ってればいいのよ」

バレー部が何時まであるのか蛍くんに聞いていないし、連絡先なぞ知らないから聞く手段もない。
教室で待っていてもクラス教えてないから多分見つけられないだろうし…おとなしく邪魔にならないように体育館の外で待っていようかな、と思い荷物を取り体育館へと向かった。



しかし、4月下旬といえどまだ少し肌寒い。
杏樹からもらったひざ掛け持って来ればよかったなぁ、と暖かい緑茶のペットボトルを両手で包み込み考える。

スマホの画面を見ると杏樹からメッセージが来ていたため、返信しようとロックを解除した途端、朝に聞いたガラガラという音がして声が降ってきた。

「朝の…」

西谷くんとはまた違う、柔らかい女の人の声。
フッと視線を上げるとドリンクボトルをいれた籠を持った清水先輩がそこにいた。

清水先輩は美人だ。
クラスの男子たちも綺麗だよな〜とか、バレー部羨ましい…とか言っているのを今日の昼休みも聞いた。ちなみに昨日も一昨日も先週も聞いた。きっと明日も聞くことになるだろう。

「あ、邪魔ですよね、退きますね」

「大丈夫だよ、というかうちの部の誰かに用事かな?」

「あ…と、蛍く…じゃなくて、月島くんにちょっと…」

「呼んでこようか?」

「あ、いえ!話があるとかじゃなくて…」

「そっか、中入りなよ」

「迷惑になるんで、やめときます」

そう言うと清水先輩は不思議そうな顔をして、ドリンクボトルの入った籠を置いて、体育館の中へと帰って行ってしまった。
もしかして、蛍くんを連れて来るのだろうか、と思ったがタオルが入った籠を持って来たから杞憂だったようだ。

「お手伝いってことなら簡単に中に入ってもらえるでしょう?ボトルのほう持ってもらってもいいかな?」

「は、はい!」

清水先輩は私が中に入れるようにしてくれたようだ。
女の私でも惚れるわこの人…。
あと、私が蛍くんを待っているということは内緒にしてくれるらしい。
優しすぎか…!