ご飯を食べながらお母さんが蛍くんのことをどんどん聞いていく。
時々私にも話しかけてくるため、はいはい、と相槌を打つ。
わかった情報は烏野高校1年4組バレー部所属ということとお兄さんが仙台にいるということだ。

「なまえは学校で蛍くんのこと見かけたことないの?」

「クラスの女子が"1年の月島くん背が高くてかっこいい〜"って騒いでたのは聞いたことあるけど」

クラスの女子の真似をして少しだけ声を高くしてみる。
嗚呼、なんて私には似合わないセリフだろう。

「まぁ!蛍くん人気者なのね」

「そうでもないですヨ。」

また目の奥が笑っていない作り笑いをする蛍くん。
この子はきっと他人と一線を引いているのだろう。
私も人のこと言えないから、何もいう資格なんてないけれど。

「じゃあ、蛍くんの部屋に案内してあげてね」

と、ご飯を食べ終わった後にお母さんに言われたため、 2階の一番奥、私の隣の部屋へと案内した。

「トイレとお風呂は1階ね。お風呂はいってます札かけてるから入ってる時はちゃんと"はいってます"にしておいてね、あと…は、うん大丈夫かな。何かあったら気軽に言ってね」

そう微笑みかけると

「ありがとうございマス。あ、ひとついいですか?」

と微笑みながら答えられた。
何か嫌な予感がするのは私だけだろうか。気のせいだろうか。


「なまえさんって本当にうちの学校なんですか?見かけたことないんですケド。その茶髪なら目立つはずなのに。」

あっ…そりゃ見かけたことないですわ。だって、私学校の中では黒髪三つ編みでTHE☆優等生ですもの。
しかし、ここで説明したほうが学校でごちゃごちゃしたりしないから、ここで説明したほうがいいのだろうか。
めんどくさいことに巻き込むことになりそうだけれど、家であの姿で蛍くんに会った時にめんどくさくなるのは御免だ。

「私ね、事情があって学校では黒髪三つ編み眼鏡少女なの、秘密ね」

といえば、なにかおもちゃを見つけた子供のような笑顔を向けてこう言い放ち、部屋へと入って行ってしまった。


「面白いですねソレ。じゃあ、また明日」

▽▲▽

眠れなかった。
学校にもしばれたらどうしようと考えてしまうと、眠れそうにもなかったのだ!
何もかも隣の部屋の住人である月島蛍の所為だ。
イライラしつつ髪を黒に変え、三つ編みをつくり制服に着替えて下に降りると、蛍くんの靴は玄関になかった。

「なまえおはよう。あのね、蛍くん朝練あるらしくってそれ知らなくてお弁当渡し忘れちゃったから学校行ったら届けてくれない?」

「は?」

「青の袋が蛍くんのお弁当だからよろしく」

そう言いながら洗濯機を回しに行ってしまったお母さん。
ふざけるな…!!高校生活2年目にして波乱の学校生活に片足を突っ込むような行為をするのはごめんだ!!
と思ったが、男の子に対して昼ごはんを購買で済ませ、なんて結構酷だよね。うちの購買は毎日戦争だし。
幸いなことに、 バレー部は私が登校する頃にはまだ朝練をしているから体育館に持っていくことにしようそうしよう。

私の良心よまだ残っていたのだね。

とりあえず、私はパンを口にいれることにした。

「どう言い訳して体育館に持って行こうかな…」