あれから足早に部屋に戻り、携帯を持って外に出る。
潔子さん達に聞かれて困る話では確かにないのだけれど、恥ずかしいので外で電話をかけることにした。


「どうしよう…」


『は、蛍くんやっといったの?』

杏樹さんお待ちください。"やっと"ってどういうことですか。

「えっ、」

『蛍くんの態度はどう考えてもなまえのこと好きってことじゃん。てっちゃんも言ってたけど?』

「鉄朗さんまで?!」

電話口に思わず叫ぶと、上からその話の主の声が降ってきた。

「呼んだ?」

「てつろ……うさん」

『え、てっちゃんそこにいるのー??』

私が電話をする相手は杏樹くらいだとわかっている鉄朗さんは、鉄朗さんの登場で驚いている私の手からスルッと携帯を奪い杏樹と会話を始めてしまう。
杏樹の声が聞こえない。


「あー、うん。……わーってるって……おう。……はいよ」

何を話していたのかわからないけれど、多分私が蛍くんに告白されたということを話したのだろう。
杏樹によると鉄朗さんまでも蛍くんの気持ちに気がついていたらしいし。

鉄朗さんに伝わっているなら、普通に烏野の人たちにもわかっているのでは?と考えただけで顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。

はい、と返された電話は切れていた。


「なまえはさ、蛍くんと喧嘩してどう思った?」

「何ですか急に優しくなって…」

「オレはいつも優しいです。」

「…………。やだなぁとは思いましたよ。一緒に住んでるのに会話もないし、ご飯作ってもいつも"美味しい"って言ってくれるあの嬉しそうな顔が見れなくなるのはツライなって思いました。」

「もし、俺と喧嘩したらなまえはどう思う?」

「鉄朗さんと喧嘩とかしないと思いますけど、とりあえず杏樹に気まずいなって思いますし、喧嘩したままじゃだめだろうなって思います」


なんで鉄朗さんと比較するんだろう。と思ったが、鉄朗さんの次の言葉で全てが解決することになった。

「メガネくんとの喧嘩だと"笑顔が見れなくなるのはつらい"で、俺との喧嘩だと"このままじゃだめだ"ってだけじゃん?好きな奴の笑顔ってさ無条件に見たいんだよな。なまえはメガネくんの笑顔…あいつはあんまり笑わねーな…まあ、嬉しい顔が見たいんだろ?それってな恋愛感情の好きだからだよ。目をつぶって思い浮かぶのは誰だ?杏樹でも烏野の主将さんでも木兎でも俺でもねーだろ?」

「………蛍くんです」


「それがお前の答えだよ」


「私はloveの意味で蛍くんが好き…なんですね…」

「メガネくんまだアホ木兎に捕まってるだろうから、第3体育館な?ほら言ってとっ捕まえて来い」

「ありがとうございます!」

ビュンッと風を切ってお辞儀をして、つい数分前までいた第3体育館へと走り出した。



「俺もなまえのこと好きだったんだけどなぁ………」

そんな黒尾鉄朗の嘆きは夏の星空に吸収されて消えてしまった。



『なまえのこと好きだって言わなくていいの?』

「あー、うん。」

『後悔するのはてっちゃんだよ?』

「わーってるって」

『私はてっちゃんにも幸せになって欲しいの。てっちゃんが決めたなら文句言えないけど…』

「おう。」

『あー……、とりあえず、てっちゃんの携帯の方にかけるね。また後で』

「はいよ」