「で、なまえは仲直りしたのか?」

「……まだですけど。」

後片付けをしていたら、スッとやってきた鉄朗さん。
仁花ちゃん怖がってるから、急に来るのやめてあげてください。
あと、もうすぐで休憩時間終わると思うんですけど。

「悩みすぎたっていいことねーんだからな?杏樹が心配してた。」

「時間が解決してくれますかね?」

「メガネくんが"反省してるみたいだ。"って烏野のおチビちゃんも3年生達も言ってたぜ」

「………っ、」

せっかく拭いた机の上にぽろぽろと雫が落ちる。
私ってこんなに涙脆かっただろうか。

「あああ!黒尾が女の子泣かしてる!!」

「クロなんでなまえ泣かしてるの」

鉄朗さんを呼びに来た梟谷の主将と、鉄朗さんの居場所を知ってると信じられて連れてこられたであろう研磨。

「私が勝手に泣いただけだよ、休憩終わりでしょ?鉄朗さん練習行ってきてください!ありがとうございます」

杏樹と鉄朗さんは本当に似てる。
杏樹も心配してくれていて、ちょくちょく話題にだしてくれる。
さっき確認した時も私と蛍くんを心配する内容を送ってきてくれていた。

「なまえさん大丈夫ですか?」

「仁花ちゃん!大丈夫だよ。ありがとう。合宿がんばろうね」

▽▲▽

午後練も終わり、自主練タイムや、ご飯タイム。
マネージャーさん達も部屋に戻ったりご飯を食べたりする。

この時間を逃してはダメだ!と思って蛍くんを探しに第三体育館の前を通ったのが運の尽きだったらしい。

「黒尾の彼女!」と梟谷の主将さんに声をかけられてしまった。

「鉄朗さんは友人のいとこです。」

「お前それ去年も同じこと言ってたぞ」

ツンツン頭の梟谷の主将の木兎さんと鉄朗さん、あと赤葦くんがいた。
赤葦くんは同い年らしい。
縁下くんと気があうだろうなぁ、

「自主練ですか?」

「まあな。なまえはメガネくん探しか?」

「まあ…。」

「黒尾の彼女名前なんていうんだ?」

「みょうじですけど、彼女じゃないです」

「みょうじか!」

若干、噛み合っていない会話である。
木兎さんは全国で5本の指に入る、という話を聞いた。
少しだけおバカなところが、日向くんに似てるなぁと思ってしまった。

鉄朗さんと私をくっつけたいらしい木兎さんは鉄朗さんに色んなことを聞いている。
そんな木兎さんの相手を放棄して、明日のご飯はどうしようかなと考えていた。
みんなの好きなものを少しずつ混ぜていければいいのだけれど、うまくいかないのが現実だ。

「あ、メガネくん」

「えっ、」

鉄朗さんがパッと扉の方を向き、私もパッと扉の方へと視線を持っていく。
ここ数週間、顔をあわせることすら避けていた彼がそこに立っていた。

「……、」

その彼は私の顔を見てから、くるっと踵を返し宿泊棟のほうへと向かって行ってしまったのだ。

「…あの野郎。」


ボソッと出てしまった私のブラックの部分。
確かに気まずいだろうけれど、そこまてあからさまにしなくていいじゃないか。
気がつくと足が動いていて、蛍くんの背中を追いかけていた。


第3体育館に残された鉄朗さんの、

「早くくっつけ両片想いめ」

という言葉は耳に届くことはなかった。