私の平凡な日常は母親のとある一言で壊されることになった。
「あ、今日の夜からお母さんの友達の息子さんがうちに下宿するからよろしく」
「は?!聞いてないけど!」
「だって、今初めて言ったんだもん」
「"だもん"じゃなくて!」
「ちなみに、なまえと同じ烏野高校の1年生の男の子だからね。バレー部なんですって!」
アイドルを語るようにキャピキャピはしゃいでいる今年で45歳の母はきっと娘より女の子だろう。
うちの高校のバレー部といえば、イケメンの集まりだとクラスの女の子たちが騒いでいた。特に1年の月島くんが背が高くてクールでかっこいい、と。
私は地味に高校生活を送りたいというのに、何てことをしてくれる。
なんでこんなに焦っているかと言うと、私は学校では典型的な地味子で通っている。
黒髪三つ編み前髪パッツン黒縁メガネである。あ、視力は2.0だから伊達眼鏡だし、地毛は茶色だよ。
スプレーで毎日黒くしている。
地味でいると男の子と話してもなんとも言われないし、委員長キャラだから、女の子受けも少しはいいと思う。思いたい。
なにより、先生受けがいい。
まあ、自分で言うのもなんだが、打算的な人間である。
あ、めんどくさい奴だって思ったでしょう?
残念ながら、私もだ。
「って、遅刻する!行ってきまーす」
「はいはい気をつけてね〜!」
母にはよく、「そのまま行けばいいじゃない、時間かからないんだから」と言われるけれど、地味におとなしく委員長キャラでいたいんです!
▽▲▽いつも通り、窓側の一番後ろのすごく特等席に座る。
隣の西谷くんは「今日から部活だー!」とかって騒いでいる。
そーいや、花瓶を割ったんだっけか。あのカツラ教頭の前で割って、そして無視してたらそりゃ厳しい処分が下るわな。ドンマイ!と心の中で言いつつ1時間目の準備を始める。
西谷くんは、今朝我が家の話題に上がった男子バレー部の部員だったりするのだけど、小さい。
バレーって背の高い人がやる競技でしょう?詳しいルールなんて知らないから偉そうに語ったりできないけど…。
「なまえおはよう」
「あ、杏樹おはよう」
杏樹は小学校からの幼馴染で私の本当の姿を知る数少ない人物。
「1時間目の何だっけ」
「んーと、化学…かな確か」
「じゃあ、移動か!行こー」
そういや、実験をするって言ってたっけ…。荷物をまとめて化学実験室へと移動する。
今日は家帰りたくないなぁ〜…
とか思っていたらいつの間にか放課後で。隣の西谷くんは全力ダッシュで体育館の方へと走って行った。
なにあの元気羨ましい。
杏樹と坂ノ下商店で肉まんを食べて帰ろうと約束をしていたので、坂ノ下商店へと向かうことにした。
家に帰るまではこの姿を維持するのはめんどうだけど、あそこは烏野の生徒の溜まり場になっているから気が抜けなくて。
「なまえ!肉まん!私のおごり〜」
ホカホカと湯気を立てる肉まんを両手に持ち、足で扉を開けることをマスターした杏樹から肉まんを受け取り口に頬張る。
美味しい…!!