「これ冷凍食品ないだろ?!何時間かかった?!」

ずいっと差し出されるのは一口ずつ程しか口をつけられていないお弁当。
おいしくなかったのだろうか、それとも髪の毛とか入ってしまっていた??

「冷凍食品は一応使ってないけど…朝は1時間くらい…かな?夜のうちに何個かは作るし…」

「まじか!すげーな!」

キラキラとした瞳を向けてくるけど、なにこのヒーローショーを見ている幼稚園児のような眼…。
ヒーローショーに出ている人の気持ちが少しだけ分かった気がする…

「お弁当だからそこまで難しくないよ?」

「いや、これは料理できない俺らからすれば簡単とかいうレベルじゃないべ」

「そうだな…すごいなみょうじは」

あっ、大地さんのいい笑顔!この笑顔をクラスの女の子たちに見せてあげたい!
この笑顔を写真の撮って売りさばけばいい儲けになるかもしれない…。
スガさんや大地さんと廊下ですれ違っただけでキャーキャー言える子たちだから笑顔を間近で見た日には大変なことになるんだろうなぁ。

田中くんに連れ出される前も、クラスの女子はスガさんに大地さん、あと蛍くんの話もしていた。

”あの人たちと付き合えるなんて本望だよね死んでもいい”って。
彼女たちはかわいいからスガさんや大地さん、蛍くんの彼女になることを夢見てもなんとも言われないうらやましい人たちだ。

……うらやましい??
なにが?何をうらやましいと思ったんだ?

私に彼氏なんかできるわけないし、できたとしても結婚なんてしないだろうし。
あんな父親見せられて育ったんじゃ結婚したくならないって。

「みょうじどうした?」

私の顔の前で田中くんの手のひらがひらひらと踊っている。

「ごめん、ちょっと考えごと!昼休み終わるから教室もどるね!また明日」

戻った教室には、私が田中くんに連れていかれる様子を撮った動画を鉄朗さんに送ったらしい杏樹が大笑いしながら鉄朗さんと電話をしていた。
ここの従妹が仲がいいなおい。

▽▲▽

「蛍くんに避けられてるなぁ」

「朝にも言ったけどさ、気にしなくてもいいんだって」

ショッピングモールについて話す話題は蛍くんのことだらけで、杏樹からも蛍くんの名前をよく聞く。
あ、鉄朗さんの話も聞く。

「てっちゃんも、気にするなって言ってたから気にしなくていいんだよ?あのてっちゃんが言うんだから。あと、気にしすぎると禿げるよ!」

禿げるだけは勘弁だ。

「あ、そうそう。この後冷却スプレーとか買いに行きたいから、スポーツ店行っていい?」

「おっけーおっけー」