あれからコーチがすぐに来たため、田中くんやスガさんから質問攻めにあうことはなかったけれど、とりあえず田中くんの視線が痛い。

タオルを渡すときにもドリンクを渡すときにもひたすら見つめてくる。
何が言いたいのかよくわかるけれど、無視だ無視。


女子の手作り弁当がそんなに珍しいのか!合宿中散々、潔子さんの手作り料理を食べていたというのに文句を言うのか!
ほかの運動部の憧れである清水潔子さんの手料理を食べていたんだぞ?!

”あの清水先輩の手料理食べれたとかバレー部うらやましすぎかよ〜”と西谷くんがサッカー部の大野君に言われていた。

それほどの憧れの人物の手料理が食べられたというのに、こんな地味な女の弁当のどこがいいんだか私には皆目見当がつかない。

うーん、とうなっていると、コーチが練習終了の合図を出した。

▽▲▽

「はい」

「ごちそうさまです」

「晩御飯食べられなくならないようにな〜」


「大丈夫ですよスガさん!私、胃袋は大きいんで!」

坂ノ下商店で大地さんから肉まんをおごってもらった。
部員にほとんど毎日肉まんをおごれる大地さんって学生にしちゃお金持ちなんじゃね?お家地主とかなんじゃね?
まぁ、坂ノ下の肉まんはそこらへんのコンビ二に比べたら安いほうだけど。

「あ、そうだ田中くん」

「な、なんだ」

「そんな構えないでよ…そんなに食べたいなら、明日にでも作ってくるよ?」

「「ブーーーーーッ」」

「田中!西谷!汚い!!!」

さすがに肉まんを食べているときまで見つめてこられたらイライラする。
手作り弁当がそんなにたべたいなら、作ってくるといったら田中くんと西谷くんは肉まんを噴き出した。
汚い………

「今日ずーーーっとガン飛ばしてきてさ、どこぞの音駒のモヒカンじゃないんだからやめてよね」

「す、すまん!というか、弁当作ってきてくれるのか?!」

「適当でいいならね。私も明日は作ろうと思ってたし。」

「じゃあ、頼んだ!」

はいよ〜と返事をして、再び肉まんをほおばる。料理は好きなほうだから楽しみにしてもらえると少しだけ…いや、すごくやる気が出る。
明日は蛍くんのお弁当も作ろう。

「みょうじの印象がらりと変わったなぁ〜」

「大地…俺もその意見に大いに賛成。初めて見たときはおっとりしておとなしい子だと思ったんだけどな」

「人は見かけによらないっていうしな」

「旭、自分の顔見てから言え?お前が一番顔と性格のベクトルが真逆だぞ」

三年生の人たちが何か言ってるけど聞こえないふり。
ここの三年生は仲がいいなぁ。
喧嘩なんてしたことがないんだろうな。いや、過去にでっかいを喧嘩をして絆を深めた…ってほうが青春ぽくておいしいね。

西谷くんと田中くんはいまだに私のお弁当作ってくる発言について議論をしている。

「あ、今日の晩御飯豚のしょうが焼きだ!」


「どうした突然」

「大地さん!豚のしょうが焼きですよ豚のしょうが焼き!お母さんから晩御飯豚のしょうが焼きだよってLINEが!」

”今日の晩御飯は豚のしょうが焼き”とかかれた画面を大地さんに押し付ける。
それをくいっと覗き込む蛍くん。
蛍くんも晩御飯気になってたんだえ…。
晩御飯を気にしちゃう部活動生も青春っぽくてよし。

「それはよかったな。じゃ、みょうじ家の晩御飯が分かったところで解散するか!」

「はーい」

皆がばらばらに歩き出そうとしたところで

「なまえさん楽しみですねしょうが焼き」


「うん!蛍くんも早く帰ろうね!お母さん蛍くんも早く帰ってきてねって言って………えええええぇぇぇぇぇぇぇぇl?!」

爆弾を投下した。