次の日目を覚まして身支度を整えてからリビングに降りると、キッチンに立つ母におはよう、と挨拶をして座る。
いつの間に帰ってきたのだろう。さすがに飛行機では帰ってきてないよね…。
そんなことを考えていると机の上にある弁当箱2つが視界に入った。

なんで、弁当箱が2つもあるのだろう。
母は”それ蛍くんに渡しておいてね”と、当たり前のことのように言われたのだ。
今日は朝練はないはずなのに、なぜ今ここに蛍くんがいないのか不思議である。

「蛍くんにお弁当渡す前に、幼馴染の山口くんが来て、教材販売とかなんとかって言って言っちゃったのよー」

ああ、そういや去年の今頃私もたくさん教材販売があって朝早く登校していたなぁ。
懐かしい、そう思いながら朝ごはんを食べて学校へ向かうことにした。

1年なんてあっという間だった。一瞬だった。
青春は一瞬だ。なんて言葉を聞いたことがあるが、本当に青春と呼ばれるものはこんな簡単に過ぎてしまうものだった。
今の烏野でバレーができるのは1年もない。
彼らが悔いのない試合ができるよう全力でサポートしよう。
数年後、数十年後に”青春してたなぁ”って笑いあえるよう。

▽▲▽

「なまえおはよう」


私の席の前に座り、にっこりと笑みを浮かべる杏樹に嫌な予感を覚える。
そういや昨日LINEを未読無視していた。そんなことで怒るような杏樹ではないが、きっとGW中のことが気になっているんだろう、こういう楽しいことが好きな女の子だから。
教室ではできるだけバレー部の話をしたくないけれど、たぶん逃げられない。


「お…おはよう杏樹」


「はい、着席。」


促されるままに鞄を机の横にかけて、席にすわる。
さて、どこから聞こうかなぁとにやにやしながらこっちを見てくる杏樹は本当に鉄朗さんにそっくりだと思う。
ここまでくると従妹じゃなくて兄妹なのでは?と疑いたくなる。


「杏樹!話の前に1年生の教室いってきてもいいかな?蛍くんにお弁当渡さなきゃいけなくて…」


「蛍くん?」


「あれ、言ってなかったっけ。うちに居候してる男の子…。」


「聞いてない!!いや、聞いた記憶もあるし聞いてない記憶もある…。男の子の名前がなまえの口から出るのが珍しくてなんかもういろいろぶっ飛んだ」


私も記憶があいまいで杏樹に蛍くんのことを伝えたかどうかわからないからどっちもどっちだな。
確かに男の子を名前で呼ぶのは鉄朗さんと研磨以外いなかった。
蛍くんが家に来るまで男の子と会話なんてまともにしたことがなかった。


「で、その蛍くんとやらは何組なの?」


「進学クラスってことは覚えてるんだけど…。」


「なら、4組か5組だね。取り合えずいこっか」


「うん」


蛍くんのお弁当が入っている青い袋を鞄の中から取り出して杏樹と一緒に1年生の教室へと向かう。
途中で田中くんとすれ違って”みょうじ!はよーっす!”と声をかけられて少しびっくりしたが”おはよう”と返すと隣にいた杏樹が私以上に驚いた顔をしていた。

あ、また追求材料が増えた、っていう顔をしている。
全休み時間をまるまるつぶしてしまうコース確定だ。
あきらめるしかない