片付けをが終わって、音駒が東京に帰るころには何があったのかわからないが、田中くんがモヒカン男と仲良くなっていた。
確かに似たところがあるとは思っていたがここまで仲良くなっているなんて思わなかった。
そして、そのおかげかはわからないが、ガンを飛ばされることはなくなったのでよかった。

音駒高校バレー部は強かった。私たちは弱い。だからその分吸収するものはたくさんあって、これからこの烏野バレー部はどんどん強くなるんだな、と感じた。

今日は最終日なので合宿所においている荷物をとりに帰ってから解散となる。
その道の途中、母からなぜか電話がかかってきた。


「もしもし?」

『あ、なまえ?あのね、乗るはずの飛行機に乗り遅れちゃったから今日中に帰れなくなっちゃったの。明日の朝一で帰るから、今日の晩御飯頼んだわよ』

「え?!ちょっ!!…あ、切れた…。晩御飯頼んだわよって…」


今日はもうお母さんが家に帰ってる予定だったから晩御飯は家に帰ればすぐに食べれると思っていたのに…。
晩御飯を考える気力なんてほぼほぼ残っていない。
私だけならお惣菜とかカップラーメンで済ませるところだけど、蛍くんがいるからそういうわけにはいかないし…。とか考えているといつの間にか合宿所についたのでとりあえず片付けを優先することにした。

▽▲▽

「潔子さん!終わりました!」


「じゃあみんなのところに合流しましょうか」


「はい!」


この合宿で潔子さんとの距離が縮まったと思う。そうだと信じたい。
女子定番の夜の恋バナで分かったことは、潔子さんには彼氏がいないということのみ。
こんな美人に彼氏がいないとかクラスの男どもは何してんだ!と思ったが、高嶺の花だろうし、バレー部員のガードが堅そう。潔子さんの彼氏になるには西谷くんや田中くんのオーディションとかありそうで怖い。


まあ、私に彼氏なんて地球が逆回転になる以上に無理なことなんだけどね。

クラスの女の子たちの話を聞くたびに、彼氏がいたら高校生活がもっと楽しくなるんだろうなぁ。
杏樹にこの前そんなことを言ったら”なまえは騙されそうだし、なんか危なっかしいからダメ!”とか言われた。

学校ではおとなしいからそんなことを言っているんだろうけれど、言い寄ってくる男などいないから心配するだけ無駄なんだよね。


「……結局晩御飯どうしようかなぁ。」


「ん?みょうじさん晩御飯つくるの?」


「あ、口にでてました?」


「出てたべ」


みんなとの帰り道に頭の中でつぶやいていた筈なのに、頭の上から菅原先輩の声が降ってきて少し驚いた。
心の声が読まれたのか、と不思議に思ったがさっきの返答で私が声に出していたことが分かったので何の問題もなかった。

にしても、菅原先輩はよく人のことを見てる。
今だって先まで前を歩く抱き付きたい背中NO.1の澤村先輩の隣にいたはずなのに、私の独り言をきいて後ろまで来てくれた。
セッターだからかなぁともおもったりもする。影山くんもなんやかんやで彼なりに周りを見ているし。


「母が今日の晩御飯作っておいてって言って電話きっちゃて
どうしようかなぁって思ってたところなんですけど…。菅原先輩って何が好きですか?」


「俺?俺は麻婆豆腐が好きかな」


「麻婆豆腐ですか…」


ショートケーキが好きな蛍くんに麻婆豆腐はさすがにひどすぎるかなぁ。
いや、意外と辛い物もいけたり……しないよなぁ。
苦手だったら面白いんだけどな。

「澤村先輩の好きな食べ物って何ですか?」

「俺か?俺はしょうゆラーメンかな」


前を歩く澤村先輩に声をかけてみると、高校生らしい回答が返ってきて、なんだか心がほっこりした。
この部活で年齢詐称しているのはパッと見、東峰先輩だけど精神年齢とか考えたら確実に澤村先輩だと思う。

「ラーメン…ならすぐ作れるけど、栄養がなあ…」

「みょうじ、栄養とかちゃんと考えてんのか?!」

「え、いや、私だけならここまで考えないんだけど、ちょっといろいろあってそういうわけにはいかなくて…」

栄養という言葉に過剰反応をする田中くん。そんなに女子の手料理に飢えてるのか?
潔子さんの手料理を散々食べておきながら贅沢な奴め…。
GW明けは確実のほかの運動部からブーイングがあると思うんだけどなぁ。

「俺の姉ちゃんもたまに作ってくれるんだけどよ、栄養とか絶対に考えてねーわ!みょうじすげーな。」

日向くんも天然たらしだけれど、田中くんも心を開いてくれると天然たらしに早変わりする。
こんなに純粋な目で誉めないでほしい…。

「で、田中くんの好きな食べ物って何?」

「俺か?俺はな〜…。メロンパン!」


「晩御飯にできるわけ!」


メロンパンとか晩御飯にできるわけがない…。
昼ごはんならまだしも、部活終わり、しかも練習試合後の男の子にメロンパンが晩御飯ですよなんて出せるわけがない。
今のところの意見じゃ参考にならなさ過ぎて余計に迷ってしまう。


西谷くん…は決めつけになるけど、どうせガリガリくんとかいうだろうし、参考にはならなそうだし…。
影山くんなら参考になりそうな意見をくれると思って、顔を上げるとみんなが、正確には蛍君以外が足を止めてきょとんとしてこちらを見つめていた。


「え…なんですか?何か顔についてます…?」


「あ…いや、みょうじさんって、結構大声出るんだなって…。」

「え…あ…っ!!」

田中君の答えを聞いたときに杏樹や鉄郎さんたちと話すテンションになってしまったんだ、と気が付いたのは澤村先輩のことばを聞いた10秒後。
やばい!と思ったけれど、それももう遅いらしく西谷君が”おとなしいと思ってたけど!面白いなお前”と言いながら私の背中をバシバシ叩いていた。