練習試合の朝、体育館に到着する音駒高校のお迎えを頼まれた私は音駒のバスを待っていた。

「なまえ。」

「研磨!分かったみたいで安心したよ」

バスから降りてきた研磨に駆け寄る。
鉄郎さんはまだわかってないみたいで、不思議な顔をしている。
あと、後ろのモヒカン頭も。


「はじめまして。烏野高校バレー部マネージャーのみょうじなまえでうす」

そう挨拶するとすぐに鉄郎さんの驚きの表情が視界に入ってきた。
そこまで驚くことだろうか?ただ単に黒髪になっただけなのに。
むしろ、こちらのほうが女子高校生にあるべき姿なのに。

あと、後ろのかわいい感じの男の子たちが”賭けに勝った!”とか言ってるから大方、烏野に女子マネージャーはいるのか否かで賭けでもしていたんだろう。
西谷くんみたいにアイスでもかけてたんでしょうよ。

「お前なまえか!黒になってんじゃん!杏樹何も言ってなかったのに」

「あ、それはたぶん杏樹の伝え忘れだと思いますよ」

鉄郎さんと研磨の間で会話をしながら体育館へと向かう。
その途中もモヒカン野郎からのガン飛ばしは終わることはなかった。


なんか文句あんのかコラ。と田中くんみたいに言いそうになったけれど、烏野のみんながいたのでおとなしくすることにした。

しかし、アップ中の今、鉄郎さんからの視線も痛くなってきた。
そんなに私がマネージャーしていることが珍しいのだろうか。

「あの、音駒の髪型のすごい人なまえさんのことじろじろ見てますね。」


「あの髪型は寝癖だって杏樹が言ってたなぁ。でも、蛍くんもこっち見てるって思う?」

先日、互いに名前で呼び合っていることがみんなに結局ばれてしまったため、隠すこともないだろということで名前呼びに戻した。
こっちのほうが呼びやすいんだよね。文字数少ないからさ。


「まぁ、鉄郎さんにこの前会ったときにこの髪色じゃなかったから、ってのもあると思うんだけど…」


「それだけじゃないと思いますケド」


「はいはいはーーい、そこ部活中にいちゃつかないでくださーい」


ぺいっという効果音とともに私と蛍君の間に割って入る田中くん。
いちゃついてるつもりもないし、いちゃつく関係じゃないんですけど、と言ってみたものの聞く耳を持ってくれなくて結局意味はないまま練習試合が始まった。


……まだ見られてますけど。
試合が終わり片付けの真っ最中なのだが、鉄郎さんからの視線はいまだに痛い。

「鉄郎さん、なんか御用ですか」

結局、我慢できなくて鉄郎さんのところへ聞きに行く羽目になった。
気になって気になって仕方がない。
あまり烏野のみんなの前で話したくはないんだけど。

「いや、なまえってこの前会ったときそんなキャラじゃなかったよなぁと思ってよ」

「まあ、こんな格好してるんでおとなしくしてないとだめですよね。平凡な高校生活送ろうって心に決めてるんで。あ、あと、あのモヒカン男にガン飛ばすのやめてくれって言っておいてください。田中くんが敵対視して落ち着かないんですけど」


そう言い終わると同時に、大笑いを始める鉄郎さん。

「ちょっと!なんで笑うんですか!!」

ヒィヒィとなりながらも大笑いを続ける鉄郎さんは私にはもう手におえない。
どうしようかと考えていると、影山くんの視線から逃げてきた研磨が助け舟を出してくれた。

「クロ、笑いすぎ」


「だって、黒髪で性格まで変わったのかなとか思ってたら、全く変わってねーし、勢いちょっと増してるんだから笑うなってほうが無理だわ」


おなかを抱えて笑う鉄郎さんにとうとう烏野のみんなや音駒のみんなの視線が集まってきてしまった。
確かにここまで大笑いしてると気になるかもしれないけど、気にしないでください!


さすがに耐え切れなくなって”ちゃんと伝えておいてくださいね”と鉄郎さんに捨て台詞をはいて、潔子さんのもとへと逃げるように走って行った。


私が逃げ去った体育館の中で、鉄郎さんが烏野のみんなから冷たい視線を送られていたということを研磨から聞くのはもっともっと後のことであった。