「蛍くん」

「これ。おばさんから預かってたの忘れてたんで。」

そう言って渡された袋の中を見ると、黒髪のウィッグがあった。
体育がない日や教室移動が少ない日はウィッグがいいんだよなぁとこの前お母さんにボヤいていたのを覚えてくれていたみたいだった。
なぜ蛍くんに渡すのかは分かりかねるが今のこの状況ではとても嬉しすぎる。

「ありがと〜!髪乾かしたらこれかぶるね」

「イエ。家に取りに帰った時に思い出したんで持ってきててよかったデス」

「月島となまえちゃんは仲がいいのね」

潔子さんがふんわりと笑って私たちを見つめている。
西谷くんたちみたいに深く追求はしてこないからとっても心地よい距離感である。
潔子さんには部屋で女子トークをたくさんしよう、恋愛話を聞かせてもらいたいなぁ。

「じゃあ、これで。なまえさんちゃんと乾かしてくださいよ髪。あと、早く寝てくださいね。また寝坊しますよ」

「いや、あれは連帯責任じゃん!私も悪いけどさ…てか、蛍くんこそちゃんと寝坊しないでよ?また布団の中引っ張り込まれるん迷惑なんだからね」

「寝坊なんてしませんし、引っ張り込むなんてもうしませんよ」

このまま言い合いを続けても潔子さんに呆れられそうだからここで辞めるとしよう。
蛍くんには多分口では勝てない気がするし。

「はいはい!じゃあ、おやすみ!」

蛍くんの背中を押して、みんなの方へ帰す。
そーいや、髪濡れてたからお風呂上がりなのかな?蛍くんこそ髪乾かさなきゃダメじゃん。

「なまえちゃんって本当に月島と仲がいいのね〜」

つい数分前に聞いた言葉を女子部屋に戻ってから布団をひいて、二人でシーツをかけているときに潔子さんの口からまた聞くことになる。


「仲良いんですかね…?」

「いいほうだと思うよ?」

憎まれ口を叩かれたりするし、料理は美味しいともマズイとも言われない。
あと、優しいのか優しくないのかわからなくなることもたくさんあるのだけれど…

潔子さんに言われるとなんか説得力が増す気がして何も言えなくなってしまった。

朝も皆より早く起きなきゃいけないから寝ましょうか、という潔子さんの一言で私たちは布団に入ることにした。
どうか寝坊しませんように…。

▽▲▽

「おはよーございまーす」

「はよーっす…」
「おはよう…」

無事に私も蛍くんも寝坊することなく、食堂へと集まることができた。

今日の朝ごはんは白ご飯に味噌汁、卵焼き、そしてほうれん草のおひたしである。

昨日の夜、調味料を確認したら何故か味噌だけ存在しなかったため、スプレーを取りに行ったついでに家から持ってきたものである。
なんで味噌だけ存在しないのか不思議で仕方ない。


そーいや、蛍くんは部屋に戻ってから西谷くんたちの尋問にあったのだろうか。私だけ抜け出してしまってちょっと悪いことしたかな、なんて反省を少ししてみる。

「「「ごちそうさまでした」」」


さあ、今日も1日頑張りましょう!