お昼休憩となり、部員のみんなと私と清水先輩で体育館で円になってご飯を食べることとなった。
部員の自己紹介も兼ねていたりする。
今までは女子が清水先輩だけだったらしく、嬉しい。と笑ってくれたからその笑顔だけでご飯三杯いけます私。
「月島の弁当栄養ちゃんと考えてくれてんだな〜」
蛍くんのお弁当を覗き呟く菅原先輩。それに続く"旭さん"こと東峰先輩と澤村先輩の3年生たち。
「本当だ。野菜に魚、あとフルーツまで入ってる」
「冷凍食品ないんじゃないか?すごいな」
お弁当を褒められるのは嬉しいけれど、なんだかくすぐったい。
杏樹に褒められるのとはまた違う。
なまえちゃん、と柔らかい声に名前を呼ばれる。
さっきの自己紹介で下の名前で呼ぶから私も下の名前で呼んでね、と潔子さんに言われたのだ。
「なんでしょうか」
「食べ終わったらなまえちゃんが持ってきてくれたケーキ切り分けよっか」
「あ、はい!紙皿とプラスチックのフォークも、持ってきたんです」
お弁当を食べ終えた私と潔子さんは家庭科室の冷蔵庫を借りて冷やしておいたケーキを切り分け、皆に配る。
そーいや、蛍くん昨日食べたけど食べるのかな?とか思っていたら取りに来たので渡すことにした。
これは、美味しかったと捉えていいのだろうか。
「うっま!」
「美味しい!」
そう口々に呟いてくれるバレー部の皆さんに頬が緩む。
「昨日の寄るところがあるってのはこれだったのか〜」
「え、あ、はい」
なんだか勘のいい菅原先輩は怖い。
いや、優しくていい人なんだけど人のことをよく見ているから蛍くんとの秘密( なんだかこの言い方は厭らしい気がする )がばれてしまうんじゃないかとヒヤヒヤしている。
「これなら、合宿のご飯も楽しみだべ」
ニカっと笑う菅原先輩。やべぇ眩しい。
そう。さっき武ちゃん先生から合宿のことについて話があった。
今までは女子が1人で家が近かったため、潔子さんは家に帰っていたらしいのだが、今年は私もいるということで潔子さんも私も合宿所へお泊りだ。
GWは毎年母が職場の仲のいい人と旅行に行っていたから私は1人ぼっちだったから特に気にしなくてもいいんだけど…お泊りって確実に髪バレますよね。
最終日には鉄朗さんがいる音駒高校との試合。
杏樹に昨日バレー部のマネージャーをすると伝えたら、てっちゃんに言っておくね!なんて少し嬉しそうに言っていたから多分もう伝わっているはず。
鉄朗さんの中の私は茶髪女子なんだよなぁ。
「じゃ、午後練始めるか!」
ケーキを食べ終わった皆は午後練習へと入る。
とりあえず私はボールに当たらないようにちょこまかと動き回る。
潔子さんのところにタオルを取り込んできますと言いに行こうとすると、
「なまえさん!」
蛍くんが名前で呼んできた。
私のことを呼ぶなんて学校では珍しいと思っていると、勢いよくボールが飛んできて、そして日向くんが目の前に現れてボールを弾いていった。
「みょうじさん大丈夫ですか?!」
「ありがとう日向くん…」
「なまえちゃん大丈夫?」
「あ、はい。日向くんが、助けてくれたので」
潔子さんがものすごく心配してこっちに走ってきてくれた。手には保冷剤を持って。
「すまん!みょうじ!俺が止めれなかったばかりに!」
パチンと自分の顔の前で手を合わせて謝ってくる田中くん。
田中くんがブロックしたボールがこっちに跳ね返ってきたのか、とやっと理解する。
「ううん、大丈夫。仕方ないことだし。月島くんも声かけてくれてありがとう」
「イエ」
咄嗟に名前を呼んだことは周りの人には怪しまれていないみたいで安心した。
▽▲▽練習を終えて、今日の晩御飯は何にしようかな、冷蔵庫に何があったかなと考える。
お母さんが帰ってきてくれていたらいいんだけどなぁ、どうなんだろう。
この前買いだめしたから、軽くオムライスくらいは作れる材料はあったはず。
用具室の中でモップを片付けていると、みょうじさん。と呼ばれ、あまり聞きなれない声だなと思いながら振り向くと、山口くんが立っていた。
「え、山口くん?どうしたの?」
「ツッキーが居候してるお家の年上の人ってみょうじさんだったんですね」
「そっか、山口くんは幼馴染みだから知ってるのか!うん、そうだよ」
「誰のお家に居候してるかは知らなかったんですけど、さっきツッキーがみょうじさんのこと下の名前で呼んでたから。ツッキー、女の子を名前で呼ぶの珍しいからそうかなって」
「山口くんはよく蛍くんを見てるんだね。蛍くん羨ましいや」
「そうですか…?」
「何かあったとしても、気づいてくれる人がいるって幸せなことでしょう?さ、片付け終わったから皆のところ行こ!」
山口くんの背中を押して倉庫を出る。山口くんにはバレても大丈夫だったんだろう。
蛍くんをとっても信頼して慕っているんだもんなぁ、彼らも何かあったのかなぁ、とか思うけれど踏み込む資格はないから今は黙っておくことにした。