その日の夜はショートケーキを作りながら、無い脳をフル回転させてなんとか頭の整理をしていた。
とりあえず作り上げたケーキは私たち2人ではもちろん食べきることができなかったので、冷蔵庫に保存をしておいて明日差し入れをすることにした……のだけれど。

「まって!蛍くん起きて!部活!!やばいって!」

現在時計は8時半を指している。部活動開始は9時だ。間に合う気がしない。つまり、私たちは寝坊をした。
お母さんは生憎、急な仕事が入ったとかといって昨日の夜帰ってきたと思ったらすぐに出て行ってしまったためいない。

ドアを叩いても全く反応をしない蛍くん。プライベートだとか、デリカシーだとか知らん!起こすのが最優先だと自分に言い聞かせて扉を開ける。

「蛍くん早く起きて!やばいって遅刻だって!せめて蛍くんだけは行っ……!」


目を開けたと思ったらぐいっと布団の中へと導かれ、蛍くんの腕の中に収まってしまった。
つまり、布団の中で抱きしめられてる、ということだ。
胸キュンするべきシチュエーションなのだがそんな暇はない。
ペチペチと頬を叩くともぞもぞと動き出す蛍くん。


「部活遅刻するから起きて」

「ん……っ、おはようございます…」


「はい、おはよう。とりあえず離して?朝ごはん作るから」

そう伝えると、腕の力を抜いてくれたためスルッと腕の中から抜けて、早く降りてきてよね!と伝えてリビングへと駆け下りる。

味噌汁を作りながら、私の思考回路に電気が通り始める。
あっという間に引き込まれて腕の中にいた。男の子なんだ、そう思ったら急に顔が熱くなり、頭を振る。
彼はきっと寝ぼけてたんだろう。そうでもないとこんなことはしないはずだ。

イスに座って朝ごはんを待つ蛍くんの元へと味噌汁とご飯を持っていく。

「手抜きでごめんね。私、お弁当作ってから行くから蛍くん先行っててもらってもいいかな?遅れて行くって伝えてくれたら嬉しい」

わかりました、という返事をもらったと同時にインターホンが鳴る。
誰だろう、と考える前に蛍くんが行ってきますと言いインターホンの音の主を確認せずに荷物を持って外へ出て行く。
不用心すぎるだろ、と思ったのも杞憂だったようで。
音の主は蛍くんの幼馴染である山口くんだった。

一緒に登校してるんだなぁとか息子を心配する母親の気持ちが少しだけわかった気がしたところで慌ててお弁当作りへと入る。
髪だって黒にしていない。一体何時間遅刻してしまうのだろう。

▽▲▽

「遅れました…!」

私が体育館へと到着したのは9時30分を回ったところだった。
あれから急いでお弁当を作って、髪を染めてケーキを箱に入れて、崩れないよう競歩の選手並みに早足で学校へと急いだ。

「みょうじさん!体調は大丈夫か?月島から、気分が悪いから遅れて行くって連絡があったって聞いてたから…」

体育館の扉を開けると、澤村先輩が焦った顔で近づいてきたため、何のことだ?と考えたけれど蛍くんがうまく言い訳を考えてくれていたみたいだった。ありがたい。

「あ、はい、大丈夫です。あ、これ、昨日ケーキ作って余っちゃったんで、持ってきたんですけど、お昼休憩の時にでも食べてください」

澤村先輩にケーキの箱を預けると、田中くんが"女子の手作りケーキ…!"とか言って感動していたけれど、お店のケーキと比べたら劣るに決まっている。

先生に入部届けを渡し、外にいる清水先輩のところへ行く前に昨日教えてもらったばかりの部室へとむかう。
蛍くんのカバンの上にそっとお弁当箱を置くためだ。
美味しいって言ってくれたらいいんだけどなぁ。

なんか、恋する女の子みたいじゃん私。うわ、変な感じ…。
とりあえず清水先輩の元へと足を急いで動かした。