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次の日朝練を終えて教室へ行くと東峰くんはまた第二体育館を眺めていた。
第二体育館は確かバレー部が練習している場所だ。
そーいや、東峰くんはバレー部だった気がするのだが……。
私は東峰くんの視界を遮るように席に着く。
視界を遮るなんて結構失礼なことなのだろうけれどあんなに悲しそうな顔をしているところを見てしまってはなんとなく体育館を隠したくなるものだ。
席に着き、昨日はありがとう、と伝えると少しびっくりしたような顔で、ありがとう、と返してくれた。
あ、意外と優しい人なんだ。
人は見かけによらないって昔から聞いていたが、この言葉がこんなに当てはまる人に出会ったのは初めてだ。
バレー部のことについて東峰くんに聞きたいのだが、あんな顔をしている人間に余計に辛そうな顔をさせるような趣味は生憎私にはない。
さっきの顔は見なかったことにしてSHRまで前の席の友人と話に花を咲かせた。
東峰くんの悲しそうな顔が脳裏に焼きついて消えることはなかったけれど。
時は流れ流れて放課後。
朝話してから東峰くんとは話していない。いや、それが普通なんだけれどあの悲しそうな顔を見てから東峰くんの存在が私の中でむくむくと大きくなっていく。
楽器を吹こうと構えるが、息を吹き込む前にさげてしまう。
なんだかのらない。
「なまえ〜?どうしたの珍しいねため息なんかついて」
同じパートで3年の倉橋智恵が声をかけてきた。
「え?!ため息ついてた?」
「自覚なかったの?さっきから楽器構えてはさげてため息、構えて下げてはため息って10分くらい続けてるよ?」
10分もそんなことをしていたなんて……。
パートリーダーとしてパートをまとめていく役割にいるのになんて失態。
どんだけ東峰くんのことが気になっているんだよ私!
「なまえはいっつもストイックに練習しすぎだからたまには外の空気吸ってくれば?」
「ん〜…じゃあ、ちょっと行ってくるね」
楽器を抱えて校内をウロチョロしているといつの間にか第二体育館へと足を運んでいた。
中を覗くとバレー部の人たちがバシンッと聞くだけで痛い音を響かせながら部活に励んでいた。
東峰くんは元々ここにいた人なんだろうなぁ。
スゥっと息を楽器に吹き込み、音を紡ぐ。
"親方!空から女の子が!"の台詞で有名な映画の男の子が朝吹いていた曲を吹く。あの映画みたいに鳩は寄ってこないけれど。
元々トランペットの曲だけれど私はトロンボーンで吹くのが大好きだ。
曲を吹き終わったと同時に
「吹部??」
聞きなれない声が私の耳に飛び込んできた。
affannato悲しげに・苦しげに