■ ■ ■


突然だが、隣の席の東峰くんは怖い。
長髪に髭。風貌が高校生じゃない。
学校の外では「5年留年してる」と噂はれてるだとか「烏野のアズマネ」と呼ばれているとかもうわけがわからない。

昨日の最後の授業時間に席替えをした。窓側の一番後ろの席を確保でき、ルンルンとしていたのだが隣の、窓側から二列目の一番後ろの席が東峰くんの席になってしまったのだ。

神様は上げて落とすのがうまいらしい。

東峰くんとは今年初めて同じクラスになったけれど、一度も話したことがない。

嗚呼、次の席替えまで私はどう耐えれば良いのだろう…。
そんなことを考えていると授業の終わりを告げるチャイムが鳴ったため荷物をとっととまとめて音楽室へと向かうことにした。

夏のコンクールがすぐそこまで来ている。
課題曲もどれにするかしっかり固めて自由曲を早く決めて練習しなければならない。
私はパートリーダーなのだ。後輩の面倒も見なければならない。
そう考えて音楽室へと向かっている間に隣の席の東峰くんは頭の中から消えてしまっていた。

▽▲▽

私たちトロンボーンパートの練習場所は3年3組と4組だ。
いつもなら誰一人生徒は残っていないため、片手に楽器片手に譜面と譜面台やらメトロノームを持っているため手で扉を開けず足で扉を開けることを一切躊躇わない。

今日もまた誰もいないと思い、足で扉を開けたのだが、扉の先には東峰くんが席に座って第二体育館を見つめていた。

「あの…!」

教室に人が残っているなら使ってもいいか確認をするのが我が部の規則。正直、東峰くんに声をかけるなんて怖くて無理だ。けれど、他の3年生の子は補習で少し遅れるらしく後輩しか後ろにいない。
後輩にこんな強面の人間に話しかけさすなどさせたくない。
よって私が声をかけなければならないのだ。

声をかけるとびっくりしたように東峰くんがこちらを向いた。

怖い。

「す、吹奏楽部がここ使いたいんだけど、い、いいかな?」

「あ、うん。俺もう帰るからどうぞ。がんばれ」

そう微笑む東峰くんは年相応の顔をしていて、意外と怖くない人なのかな?と思ったりもした。

tardamente
ゆっくりと