最近、いや、ずっと前からある人を見ると胸がぎゅっと締まるような不思議な気持ちになる。その人を見かけると自然と視線はそちらを向き、胸がドキドキと音を立てる。そして他の男と話す姿を見ると胸がぎゅっと締め付けられたり、モヤモヤするような変な気持ちになる。こんな気持ちになるのは初めてだ。初めてだからこれがなんなのかわからない。疑問に思い、割と仲がいい緑間に聞いてみると"それって…"と中途半端に終わった。会話が中途半端に終わったのはそこに彼女が現れたからだ。噂をすればなんとかってやつだね。彼女は重い体育館の扉を開き、目が合うなりニコッと笑った。 「テツヤ、いる?」 ぎゅっ。ほら、また胸が悲鳴をあげる。彼女は俺なんて見てやしない。緑間と目が合うと"そういう事なのだよ"と全てを見透かされたように言われた。彼女は黒子を見つけるなり、パタパタと音を立て黒子の元へ駆け寄った。その姿をジッと見つめる自分が惨めだ。最近、モヤモヤした気持ちのまま部活を終えることが多い。 片付けが終わり、みんな制服に着替え部室を出ていく。いつの間にか緑間と俺だけが残っていた。気まずそうな雰囲気の中、緑間が口を開いた。 「…つまり、お前はあいつの事が」 「今日確信した。まさか、黒子の彼女を好きになるなんてな」 「そういう運命だったのだよ」 緑間が眼鏡をあげると同時に部室の扉を叩く音が聞こえた。緑間が扉を開けるとそこには彼女が立っていた。緑間は無言で俺の顔を見て、荷物を持ち部室を出ていった。余計なお世話だ。突然二人きりになって彼女が動揺してるだろ。 「…黒子なら先に帰ったよ」 「あ、そうなんだ。一緒に帰ろうって約束してたから部室にいるのかと思った」 「そう、残念だったね。ここには黒子はいない」 「うん。ごめんね!じゃあ、またね」 彼女は控えめに笑いドアに手をかけた。きっとこの後、彼女は黒子を追いかけてしまう。 せっかく二人きりになったのにこれを逃していいのか。 気がつくと立ち去ろうとする彼女の腕を掴み、そして後ろから抱き締めていた。彼女は体をビクッと反応させ、不安そうな声で俺の名前を呼んだ。 「…赤司くん?」 「ごめん。君をこのまま離したら黒子のところにいってしまうと思って」 「え…急にどうしたの赤司くん…」 「ずっと黙ってるつもりだった。前から君を見てると自分でもなんでかわからないくらいドキドキしたりした。でも今日これがなんなのかわかった」 「えっと…私…」 「答えはわかってる。でも俺の想いが強すぎて抑えることが出来ない。今だけ…今だけでいいから俺のものになってくれ」 「赤司くん」 彼女はこちらを向き、俺の名前を呼んだ。そっと唇を近づけると彼女は顔を反らした。彼女は俯いてごめんと呟く。ごめん、は俺の台詞だ。 「…好きだ」 一瞬だけ彼女の瞳に俺が映った。きっと次に彼女を見るときは彼女の瞳には黒子が映っているだろう。 「今だけ俺だけを見て」 夕日の光が差し込む部室で俺はさっきよりも強い力で彼女を抱き締めた。 片思い赤司。中学なので僕じゃなくて俺。 20120705 あぴ |