断髪式
「あなた…ミス、フォーチュン…?」
いつももと外見も様子も違う旅のパートナーに話しかけると、向こうはビクッとこちらを振り向き、ほっと肩を下ろした。
「……櫻花…」
「髪、どうしたの」
少し怒鳴りつけるかのように尋ねると、彼はああ…と言って自分の髪を触った。
「少しドジって…」
彼、ミスフォーチュンの長い髪は、一部が短くなっていた。…というより、ところどころ切り落とされたというような感じだ。
ドジる、というのはいかにも彼らしいが、どうドジったらそうなるのか理解不明だった。
「ほんとにドジっただけだから、気にしないで」
「…いや。少しは気にしなさいよ。悲惨な状態になってるわ」
呆れたように言えば彼は眉をハの字にする。
「………切ってあげようか」
「…え。いや…」
「安心しなさい。妙な事はしないから」
多分彼は私に左手を手当てされた事がトラウマになっているのだろう。手招きをすると、遠慮がちに恐る恐ると近づいてきた。
私は隠し持っていた(現代のハサミの原形であろう)ものを取り出した。それを見るなりミスフォーチュンは目の色を変える。
「なに、怖いの?」
「………」
「何もしないって言ったでしょ。ほら!」
「っわ」
強引にミスフォーチュンの腕を引っ張り、座らせた。触って分かったがだいぶ身体がこわばっていた。
そんなに怯えなくてもいいじゃない。そう心の中で悪態をつきつつも、そんな彼がとても可愛らしいと思うのだから重症だと思う。
「大人しくしててよ」
刃物を研ぎ終えた私はミスフォーチュンの髪を触った。触ってみると改めて恨めしいほどさらさらしている事がわかる。その髪は触っているととても心地よく、同時に女をも越える心地よさを実感し悲しくなってくる。
なんか特別な手入れでもしてるのか、と聞けば、特に何もない。毎日解かしてるくらいだと彼は答えた。
「…この髪質だと、あんまり短いのも似合わないわね」
「……そうなの?」
「そう。だから、敢えて長くも短くもない、こんな髪型にしてみました」
私は水面にミスフォーチュンを連れていく。といっても彼が水面を見たのは一瞬で、すぐその場を離れてしまったが。
そういえば駄目なんだっけ、水溜まり。
「どう?見れた?」
「…………よく、分からないけど」
やっぱりな。
一瞬でしかも動揺状態だった彼の事だから自らの事なんてよくチェックなんてしていないだろう。
でも、我ながらなかなか良い出来だと思う。
前の長かった時よりかわいいし綺麗だし…前は完全に見た目が女だったが、男にも見えなくもなくなってきたから。
「………でも、軽くなった」
「え?」
「ありがとう…」
彼は何時もと変わらない表情で、しかし少し照れくさいような感じも含めて、そう言った。
ああ…私はほんとに…
断髪した後の髪型が今のミスフォーチュンの髪型になります。20130404
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