迷子

子供は純粋なようで、大人には見えないものが見えたりする。
もっともそんな事、子供はわからず大人は忘れてしまっているのだけど。
けれど絶対に、しっかりと、ひっそりと。「それ」はあって。

「もぉ、お母さん、ひどいんだよ」
不満そうにそう呟いた。
ここは秘密の場所。入り口は家の中にあるからいつでも出入りできる。
中はとてもとても不思議。
大きくて、あったかい。
壁紙は可愛らしい絵があって、よくわからない、けれど楽しそうななものがあっちこっちある。
空中に浮かんでいるものだってある。
まるで玩具箱のようだ。

「あはは、お母さんだって好きで怒っているわけじゃないんだよ」

どこからともなくクマのぬいぐるみが現れてそう言った。
ぬいぐるみは普通話さないけれど彼女は気にも止めない。ここは何でもありなのだ。

「でも、お母さんっていつもおこってるの。今日だっておかしをちょっと食べただけでカンカン。
 お母さんってわたしのこと、きらいなのかなぁ……」
「それはないよ。ほら、見て」

壁に映像が映される。映っているのはお母さんだ。
何やらキョロキョロ見回している。
何か探し物だろうか。
首を捻る。
お母さんはしっかり者だから何かを無くすなんて珍しい。

「君を探しているんだよ」
「そうなの?」
「うん。君は今、ここにいるからね。お母さんはどこにいるかわからないんだよ」

へぇ、てわかったかのように頷いた。
変なの。入り口はあんなに見つけやすい場所にあるのに。

「行ってあげなよ」
「……うん。わかった」

扉をくぐって、お母さんの前に行く。
するとほっとしたような表情をしていて、ふぅんと思う。
なぁんだ。

「どこにいたの?」
「ひみつ!」

フフッと大人っぽく笑うとお母さんが驚いた顔をした。
まったく、お母さんはわたしがいないとダメなんだから。
ふと、目に入った先ほどの扉がちょっとだけ透けていて、もう一度笑みをこぼした。


子供は大人の知らない所で成長する

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