狐の嫁入り

空に紺碧の帳が落ちた。
鬱蒼とした森の中は不気味なぐらい静寂に包まれている。
唯一の光すら、この中には届いていない。

「毎年、毎年。ご苦労様なこった」

クツリと喉で嗤う。
視線の先は森の入り口。
小川にかかる橋にたたずむ女。
彼女は朝からずっとそこにいた。
約束を果たす為に。
毎年、毎年。
この日、この場に訪れる。
大切なあの人に合う為に。
始めは鮮やかな朱を誇っていた橋も既に色褪せてしまった。

「夢は終わらせなきゃ、あかん。せやろ?」

幽かに蠢く気配に笑みを深めた。
ふいに、雫が頭に落ちた。
しかし空に遮る物は何もなく。

「時は満ちた」

言葉が合図したかのよに燃え盛る二列の炎が不気味に浮かび上がった。
列の中に躍り出ると女が驚いたようぬこちらを振り向いた。
女が追いかけてくるのを確認しつつ森の奥へ、奥へと足を進める。
たどり着いたのは小さく古びた祠。
その前にはあの、後ろにいたはずの女の体が横たわってある。
追いかけたきた方の女の顔は歓喜の色に満ちている。

「もう……お休みの時間や」

女は、するりと流れるように前に進みでて霧散すらがごとく消えてしまった。

「あの女、待ち人でも見つけたんか?」
    
笑いながら聞く仲間。知っているのに酷な事を聞く。

「さぁな。狸にでも化かされたんやないんか、きっと」
「そりゃあ、酷い奴やな」
「全くや」

あの女は随分前に本当は死んでいた。
それでも約束を守るために魂となって毎年、現れていたのだ。
そっと見上げると木々の合間から星々が。
せめて、あの世か、来世にでも結ばれるといい。
ぷるりと体についた雫を落として、さらなる闇の中へ足を進めた。

深淵なる闇の中に、ゆらりと尾が揺れて消えて行く。
祠の前には、女の体だけが残っている――



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